最長片道切符の旅/宮脇俊三

最長片道切符の旅 (新潮文庫)』を読んだよ。やっぱり、旅行モノが続く。

宮脇俊三氏の2作目が本書。前作の『時刻表2万キロ』中央公論社在職中だったが、本書はいよいよ会社を退職し、本格的な紀行作家として活動を始める段のもの。だから、冒頭では、退職後の鉄道の乗り方について、思いを巡らす。

自由を享受しながら制約をつくりだし、時刻表の楽しみを回復するにはどうしたらよいのか。大海を前にした蛙のような心境で思索しているうちに、思い至るところがあった。
と。そして、その思い至るところが、北海道から九州までの「最長片道切符の旅」というわけ。これがどんな旅なのかと一言で言うと、国鉄の路線を一筆書きのルートで北海道から九州まで乗っていくというもの。しかも、できるだけ最長のなるルートで。分かる人には分かると思う。

…と書いたが、当の国鉄人でもこのルートの切符を見せられたら、幾つもの?が頭に浮かぶだろうと思う。ということで、車掌や駅員の反応がそれぞれで面白いので、以下に紹介。

「なんでも結構です。お客さんですから」
と完全にお手上げの車掌。
「これは何ですか。切符ですか」
とお客さんに逆に聞く改札係。
「生まれてはじめてですわ」
と驚愕する車掌。
「とても私にはわかりません」
と経由地の確認を怠る職務放棄の車掌。

そして、最終日の前日に、

だが、思い返してみると、この駅員こそ私の最長片道切符に対して真正面から対応してくれた唯一の国鉄職員ではなかったか。
という駅員に遭遇する。うん、この駅員は忠実に職務を遂行していたからね。

あぁ、国鉄職員の話で字数を埋めてしまったけれども、日本全国の秋の風景と地形の特徴を感じながら読める本書。下手なガイドブックより、日本を感じられるよなぁ~。

最長片道切符の旅 (新潮文庫)
宮脇 俊三
新潮社
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あやしい探検隊 不思議島へ行く/椎名誠

あやしい探検隊 不思議島へ行く 「椎名誠 旅する文学館」シリーズ』を読んだよ。本当に不思議だらけ。

椎名誠のあやしい探検隊シリーズ第3弾。今回は島巡り。もちろん、浜辺で天幕が張れれば、そこで焚き火キャンプをするのはあやしい探検隊のご定番。とは言え、初出は週刊宝石の旅ルポものだから、週刊誌の編集者とカメラマンが同行するのが基本なので、今までの東ケト会的なアヤシサはトーンダウンする。週刊宝石的に怪しいのは、やっぱりニンゲンということになりそうで、今回は島にいる人のアヤシサが満載という感じ。

では、どんなタンケンだったのか。まずは、いつもと違うキャンプ地の状況。場所は神奈川県の猿島

こういうキチンと管理された浜で東ケト会が 焚火宴会をするのははじめてなのでまるで勝手がちがうというわけだが、しかしゴミ箱からゴミを集めてくる、ということになってくるとなんとなく浮浪者の一団が島流しになってなんとか一夜の暖をとる、というふうな気配にもなってきていて、よく考えるといささかわびしい。
勝手が違うと東ケト会が東ケト会でなくなってしまう。アヤシさが増してしまうというのが、逆説的。となると、これは東ケト会のキャンプではないよな…。

そして、海外の島旅も。場所はモルジブ

(ビールは 果たしてビールはあるのだろうな!?)勿論この段階になればこの国でビールを生産しているということなどまず絶対あるまい、ということはわかっていたが、問題は果たしてそれをきちんと輸入しているかどうか、という点である。
と心配の種は尽きないが、気持はよく分かる。東ケト会の焚き火キャンプと言えば、何はなくともビール、ビール。日本国内であれば、大抵は手に入るけど、海外では重大な問題だよね。

このところ、旅行記のようなものが続いているな…。単なる偶然なんだろうけど、そろそろ重たいものも読まないとなぁ~。

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スギナの島留学日記/渡邊杉菜

スギナの島留学日記 (岩波ジュニア新書)』を読んだよ。教材の質。

『未来を変えた島の学校』を読んだ際に、参考文献として掲載されていた本書。副読本として良さそうだと思っていたので、読みたい本リストに上げていたんだけど、サックリ読めそうだったので、すき間的に読んでみる。

本書の筆者は、隠岐島前高校の生徒だった渡邊杉菜氏。そして、島外からの入学者。『未来を変えた島の学校』に書かれていたように、隠岐島前高校の島外生徒を積極的に受け入れるという方針のもと、入学したひとり。そして、3年間の高校生活で様々なことを体験していく。そして、本書はその記録。筆者以外にも、関わった人物も筆を取り、1冊にまとめているよ。

では、隠岐島前高校ではどういう教育が行われているのか。ひとつの事例として、公立塾「隠岐國学習センター」での「夢ゼミ」。当然ながら隠岐島前高校と連携していて、このゼミが行われている。スギナちゃん曰く、

でも、「夢ゼミ」での「なんで?」という問いかけが、一歩も二歩も踏みこんだ調べ方・話の聞き方を身につけさせてくれました。そのうえ、地域や社会全体がかかえる問題がよく見えるようになってきました。
と。調べ学習の一端だけど、「なんで?」を繰り返すことで、より深く探求させているんだろうね。そして、かなり頭を使うだろうね。

その「隠岐國学習センター」のセンター長は「夢ゼミ」の学習について、

このように複雑に絡まるさまざまな課題の因果関係を具体的に書き出しながら、その連鎖のどこを断ち切るかを考える方法を「システムシンキング」と呼びますが、それを高校生たちは身近で具体的な問題を通じて学んでいるということです。
と言う。なるほど、システムシンキングか。これが身に付くと、人生の強力な武器になるよね。高校時代にこれが学べるのは羨ましい限り。学校教育はドンドンを変わっていくな…。

スギナの島留学日記 (岩波ジュニア新書)
渡邊 杉菜
岩波書店
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コンビニ人間/村田沙耶香

コンビニ人間 (文春文庫)』を読んだよ。これも普通だと思う。

村田沙耶香氏の第155回芥川賞受賞作。タイトルと表紙に惹かれて気になってはいたんだけど、早くも文庫版が登場したので、遅れてはならじと図書館予約。お陰で、早めに読むことができてめでたし。

さて、この作品、なんと申し上げていいやら。中盤から急展開することになり、このままでは嫌だなとハラハラしていたけど、自分の落ち着けるにたどり着き、ホッとしたところ。でも、気持ちがわからなくないでもないので、なんで人間て、こうも愚かな面を内在しておるのか…と憤ってみたり。多様性の時代なんて言われているけども、それはやっぱり建前の世界なんだと、改めて認識させられたり。

物語の主人公は36歳独身女性。子供の頃のエピソードから始まるんだけど、これがまたユニーク。そして、そういう発想も有りだな…と、共感できる部分もあったりして。
そんな彼女がコンビニ勤務を18年も続けるんだけど、そのきっかけとして、

そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだ。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。
というようなことを言う。うん、考え方としては悪くないのでは?と思うんだけど、結局世間様がどう判断するかなんだよね。

学生時代の友人と会うシーンでは、

早くコンビニに行きたいな、と思った。コンビニでは、働くメンバーの一員であることが何よりも大切にされていて、こんなに複雑ではない。性別も年齢も国籍も関係なく、同じ制服を身に付ければ全員が「店員」という均等な存在だ。
と思ったりする。完璧なコンビニ人間だ!!というのは簡単だけど、意外にシンプルでシステムチックだったりして…。やっぱり、嫌いじゃないなぁ〜。古倉恵子さんのいるコンビニに行ってみたいわ。

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村田 沙耶香
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池袋ウエストゲートパーク/石田衣良

池袋ウエストゲートパーク』を読んだよ。自分の知らない世界…。

作家石田衣良氏のデビュー作が本書。表題の『池袋ウエストゲートパーク』の他に3作品。以前に『美丘』を読んだことがあったけど、甘酸っぱい青春小説っていうより、芯の通った生き様小説という感じだったかな。今回もそんな感じではあるんだけど、もう少し社会的な要素が取り込まれ、物語が展開していく。

主人公はマコト。地元の工業高校卒。池袋西口果物店を営む母親と同居。たまに店の手伝い。日頃の居場所は池袋西口公園。そこに集う若者たち。ヤバイ商売に手を染める女たち。それに群がる男たち。警察には言えないようなトラブルは起こる。マコトは仲間たちを使って、トラブルを鮮やかに解決していく。

前半の3作は軽いジョブという感じで、面白かったのは『サンシャイン通り内戦』。前の3作品で登場した人物が力を結集して問題解決に当たる。話の展開がスピーディで引き込まれるように読み進む感覚がいかにも若者らしいしね。

さて、マコトの求心力の源泉って何なのか。マコト自身は、

「ガキどもにはモデルがない。身近なところに目標になる大人がいないし、夢も見せてもらえない。おれたちはモデルと絆を用意する。自分が必要とされている充実感、仲間に歓迎を受ける喜び。規律と訓練。今の社会では得られないものを、力をあわせ見つける」
と語る。マコトだって、年齢的には十分にガキなんだけど、しっかりした分析力だよね。果物屋の手伝いをしているのは勿体ないほどの能力だと思うんだけど。そっか、こうやって大人になっていくんだね。どんな大人になるのか、楽しみだなぁ~。

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陰陽師 飛天ノ巻/夢枕獏

陰陽師 飛天ノ巻 (文春文庫)』を読んだよ。博雅はよい漢。

陰陽師シリーズの第2弾。第1弾が面白かったので、この第2弾はだいぶ以前にkindle本で購入済み。積読状態だったけど、やっとこの度読了。
そして、今回も安倍晴明源博雅の名コンビによる事件解決の物語集。いつものように晴明の謎解きは圧巻だけど、それはもうこの物語の前提条件になっているよね。

さらに、それぞれの物語の面白さに加えて、彩りを添える描写もいい感じ。例えば、博雅が晴明宅を訪れる際のシーン。

繁るにまかせているようにも見えるが、よくよく眺めてみれば、薬草として利用できるものが多い。博雅自身にはわからないが、意味のないように見える他の草や花も、案外晴明にとっては意味のあるものなのかもしれない。
とか、
ただ生えるにまかせているだけでなく、どこかに晴明の意志が働いているからなのだろう。
という感じ。この、草花の繁りは意味があるのかないのか、微妙な状態がこれから始まる物語の危うさを匂わせるし、晴明の不思議さも醸し出しているよね。

そして、今回の注目はワトソン役の博雅自身についてのこと。

「そうさ。博雅という才能、あるいは 呪 は、この晴明という呪にとっては、対のようになっているものではないか。博雅という呪がなければ、晴明という呪などは、この世にないも同然かもしれぬぞ」
と晴明自身から言わしめるほど、持ち上げられる。さらには、
その自分の奏でる笛の感応力に、博雅自身が気づいてないという節があるようなのも、まことに好ましく、博雅の友人である安倍晴明が、おりに触れて言うごとくに、この人物が、
“好い漢である”
ことを示しているように、筆者には思えてしまうのである。
と筆者自身の言葉まで出て来るよ。うん、この物語にそこはかとなく漂うやさしさは、この博雅から発せされているように思うよ。第3弾も期待できそうだな…。

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人生がおもしろくなる! ぶらりバスの旅/イシコ

人生がおもしろくなる! ぶらりバスの旅 (幻冬舎文庫)』を読んだよ。バス旅はローカル色が現れる。

このところ、旅もの本が続いているけれども、特に深い意味はないんだけど、やっぱりつい手に取ってしまうということなのかと自己分析しているところ。で、今回はバス旅。日本国内のバス旅もローカル色が豊かで楽しいはずだけど、世界に目を向けてみると、これまた様々なバス旅があり、その土地土地の文化が色濃く反映されるのがバス旅なんじゃないかと思うほど。

もひとつ驚いたのが筆者が男性だったこと。だって、「イシコ」だから。しかも、籍を入れていない妻がいるし。いや、男性でなければ、こんな旅はできないし、妻子があっても、こんな冒険旅はできないだろうな…と想像する。

では、どんな旅なのか。
まずは、日本で。しかも、都内の路線バス。

昔、利用していたバスに乗ると車窓に自分の人生が詰まっていることに気づかされる。車窓から見える風景と地名から記憶を呼び起こし、時間の流れが入り交じったタイムマシーンに乗っているかのようだ。
と筆者。自分の場合は「あの頃は何を考えて生きていたのだろうか…。」という疑問になるんだけどね。

そして、長距離の高速バスでは、

既に窓際のカーテンは閉められていた。カーテンを少しめくると先ほどまで自分が立っていた場所が別世界のように見える。夜行バスは外の世界を感じさせてくれるから好きなのだ。
と言う。そう、狭い車内、狭い座席がひとつの空間となり、そことの対比がそんな印象になるんだろうね。まるで、宇宙船から地球を眺めるような感覚…。

最後に海外編。ベトナムでは、

「すぐ」という時間の感覚は人種や住む地域によって違う。もっと言えば人によって違う。僕が旅を続けたことで得た物の一つに時間感覚の多様性を受け入れられるようになったことがある。何の役に立つかと聞かれると困るけれど。
と言う。そう、「soon」という単語は一つだけど、それを意味する時間が人や状況によって、確実に違うからね。

たまには高速バスなんぞに乗ってみたいと思うけど、長距離の場合、どこまで耐えられるのだろうか…。さすがに青森とはキツそうだなぁ〜。試してみるか?

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イシコ
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