深海生物学への招待/長沼毅
『深海生物学への招待 (幻冬舎文庫)』を読んだよ。光合成だけではなく。
辺境生物学者とかいうタイトルでNHKのTV番組「爆問学問」に登場したことのある筆者・長沼毅氏。番組では科学界のインディ・ジョーンズとか言われて、世界各地の辺境地を旅する姿が紹介されていたような…。
そんな長沼先生が辺境の地の一つである深海に生息する生物とその特徴を紹介するのが本書。特にチューブワームという深海底に生息する奇妙な生物がどのような生態なのかを明らかにするよ。
では、深海の生物を発見する意義はどんなところにあるのだろうか。
いや、熱水生態系の発見が有する本当の意義は、単に深海観を変えたことではなく、むしろ、われわれの生態観を変え、生命観を変え得ることだろう。それは、従来の「太陽に依存した生命」に対抗する新しい生命パラダイムを提唱することであり、地球生命の誕生と進化あるいは宇宙における生命の考察に新たな視座を与えることである。要は、光合成による生命の糧の生産のパラダイム以外にも食物連鎖の軸があるということ。その代表が前述のチューブワームというわけ。だからこそ、チューブワームを研究する意義があるんだよね。
そして、生物の生態の話だけに留まらず、地球そのものの生態に発展していくよ。
世界最深の湖、シベリアのバイカル湖でも湖底にバクテリア・マットや生物コロニーが観察されており、湖底熱水活動が示唆されている。バイカル湖はもともと大陸の割れ目(地溝帯)の湖なので、海底の割れ目(リフト)に熱水活動があるように、バイカル湖に熱水活動があっても不思議ではない。プレートテクトニクスだ。この地球の構造があるからこそ、生命誕生の基盤があるということだよね。
さらに話は宇宙に進展する。
地球以外の天体における熱水活動、それは地球以外の天体における生命の可能性を示すものである。今までわれわれは生命といえば太陽の恩恵の賜物と思ってきたが、宇宙規模で考えると太陽の恩恵とは無関係の生命のほうが実はふつうなのかもしれない。これこそ、パラダイムシフト。普通と思っていたことは普通でないかもしれない。チューブワームのおかげかも。そう考えるとチューブワームが好きになりそうだね。
深海生物学への招待 (幻冬舎文庫)
posted with amachazl at 2020.03.22