せいめいのはなし/福岡伸一
『せいめいのはなし』を読んだよ。動的平衡だけでこれだけ話が盛り上がる。
いつもの福岡ハカセの対談集。新潮社の季刊誌『考える人』に掲載されたものをまとめたもの。それにしても、この『考える人』という季刊誌は凄いね。タイトルが微妙にくすぐる感じだし。好きそうな人は読み続けるんだと思う。考える人=人間なんだろうけど。
対談の相手は、内田樹、川上弘美、朝吹真理子、養老孟司の4人。アッシ的には男性2名との対談が気になる感じ。
4人との話で共通するテーマは「動的平衡」。福岡ハカセが動的平衡について話をして、対談の相手がそれについて自分の考えを披露するというパターン。それでも、立場によって、動的平衡に対する認識の仕方がいろいろだから、面白いよね。
内田樹氏は、経済活動を動的平衡で考える。経済活動は「価値のあるもの」をやりとりするために始めたわけではなく、人間が「交換をする主体」となりうるための装置だったと考える。それが細胞レベルでも同じこと。細胞は隣の細胞と何かしらの情報を交換しながら、成長していくから。それを情報のパスと考える。
これから後、動的平衡をどうやれば維持できるか、どうやれば気分よくパスが進行していくか。それを考えればいいと思う。もうパスは来ているわけだから、誰から来たのかなんかどうでもよくて、どこに次のパスを送るかに集中した方がいい。と言って、因果関係を考えることよりも動的平衡を維持することの大切さを言っているよ。
川上弘美氏との対談では、動的平衡を仏教思想と結びつける。輪廻思想はまさに動的平衡だよね。ということで、
だから実は、科学というものは昔から人間が知っていたことを言い直しているにすぎないとも言えるのではないかと思います。と福岡ハカセ。分かっていることしか分からないってわけだよね。
朝吹真理子氏との対談では、メカニズムさえコントロールできれば、世界がコントロールできるという錯覚の果てに今の文明の問題があるのだと指摘しているよ。でも、動的平衡の考え方は、メカニズムは通用せず。因果律ではないからね。
最後は養老先生との対談。これは圧巻の面白さ。効率を追求して少しでも時間を作ったとしても、それが結局は弛緩の時間になってしまうのではないかと福岡ハカセが指摘。これに対して、養老先生、
効率的に生きるなら、早くお墓に入ればいいのに(笑)。やることやって早く死ぬのがいちばん効率がいいですよ。と、養老節が炸裂。いいなぁ、養老先生。
本書に通底するのは、因果律vs動的平衡なんだけど、最後の福岡ハカセの見解がアッシ的には分かりやすかったかも。
時間の関数として発生していったものを、時間を止めて後からのぞき込むと設計的に見える―この世界の背後にある静的な秩序と、絶え間なく動いている動的なものという、ふたつの対比は、設計的にこの世を見るか、動的な、発生的なものとして、この世を見るかということの対比との、相似形だと思います。と言っているんだけれども、本書の出演の皆さんは因果律には危惧があるとおっしゃっているというのが結論なんだよね。理系人間には理解しにくい考え方なんだけど、動的な考え方というものがあるということの理解は必要だよね。
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