工学部ヒラノ教授/今野浩

工学部ヒラノ教授』を読んだよ。大学教授もさまざま。

20代の頃、筒井康隆の『文学部唯野教授』を読んだことがあったけど、内容はほとんど記憶になし。でも、要はその当時でも世間に実態があまり知られていなかった大学教授という職業について、その一例を小説にしたものという印象だけは残っている。思えば、「そうそう。」と頷きながら読んだかも。
で、本書。東大工学部を卒業したヒラノ青年が、幾つかの大学を経て、助教授、教授と出世していく物語。一応、小説風だけど、筆者の実体験に基づくものを思われるので、私小説?(この表現は古い?)
具体的には、筑波大学東京工業大学中央大学と移籍。特に、国立大学の改革時期に当たっているので、その辺の話は当事者の本音が語られて面白いよ。

で、前述の『文学部唯野教授』と本書。どこが違うか。「唯野」は「只の」あるいは「唯の」で、「ヒラノ」は「平野」ではなくて「平の」。だから、特段の教授ではなく「普通の」とか、そういう意味。だから、大きな違いは、文学部と工学部という学部の差。

具体的には何が違うか。アッシが本書から読み解いたのは、
・成果が短期間に求められる。
・実験設備が必要で、カネが掛かる。
・優秀な助手や学生が研究室に入ると研究が進む。
etc
でも、一番の違いは理系と文系の人種の差。特に、「工学部の教え七ヶ条」は、如何にも理系の考えそうなことで面白いよ。それは、

第1条 決められた時間に遅れないこと(納期を守ること)
第2条 一流の専門家になって、仲間たちの信頼を勝ち取るべく努力をすること
第3条 専門以外のことには、軽々に口出ししないこと
第4条 仲間から頼まれたことは、(特別な理由がない限り)断らないこと
第5条 他人の話は最後まで聞くこと
第6条 学生や仲間をけなさないこと
第7条 拙速を旨とすべきこと

というもの。
特に、第4条が効いていて、大学である役職を頼まれれば断れない…。委員会の委員長とか、学部の主任とか。これを引き受けると、仕事が何倍にもなるのにね。

さて、教授の仕事ってなんだろって思うと、教育と研究。どちらの割合が多いかっていう議論が業界ではよく出るんだけど、やっぱり国立と私立では大きな差。ヒラノ教授も中央大学に移籍した時に実感したみたい。それを考えると、国立大学って独法化で大変は大変なんだろうけど、それでも私学よりは恵まれているんじゃないかなぁ〜なんて思うよね。あ〜、私学も頑張らなければいけないんだけど…。

工学部ヒラノ教授
工学部ヒラノ教授今野 浩

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