森の不思議/神山恵三

森の不思議 (岩波新書)』を読んだよ。森林浴の発祥本。

1983年が初版の岩波新書(黄版)だから、そうちょうどアッシが社会人になった頃と前後する。そう、もうかれこれ20年以上前になるけど、職場でこの本が話題になったことがあったよ。その当時としては「森林浴」とか「フィトンチッド」なんていう言葉は新しかったからね。
そして、アッシも森が好き。山が好きという部類だから、余計にこの本が気になっていたわけ。なぜ、読まなかったかというと、そういう古い本をどこで入手するかという問題と、「フィトンチッド」などの言葉が出てくると化学的な解説が多いのかと思っていたから。
でも、実際に職場の図書館で手にとってみると、あっさりそれらの問題は解決。後者の問題はまったく無く、どちらかというと森にまつわるエッセイという感じ。

実際にはこんな感じ。
例えば、マウスの飼育箱にエンピツジャクシンという木の鉋くずを敷きわらにつかうとマウスに対する睡眠薬の効き方がだいぶ違うという実験。睡眠時間が短くなるのだという。さらに、肝臓のおける活性酵素も高まるとか。

エンピツジャクシンといえば、鉛筆の木である。鉛筆を削るときにぷうんと香る、あの香りはおもにテルペン類の香りである。つまり、木から発散される香りが、睡眠薬を“解毒”する効果を持っていたのである。
そう、鉛筆を削った後の香り。テルペンというのはフィトンチッドの一種というか主成分。あの匂い、懐かしいなぁ〜。好きだったなぁ〜。

そして、植物と人間との関係についても含蓄のある言葉。
植物は微生物から身を守るべく、フィトンチッドを作り上げてきた。だが、幸いなことにフィトンチッドは、微生物には害を及ぼすけれども、人間に及ぼすことはない。むしろ逆に、人間は薬物としてそれを利用してきたし、森の中で森林療法をやったり、森林学校で青少年の心身をきたえたりしている。反面、森を壊滅したり、植物を死滅させたりしている人間もいるのだけれども。

それなのに、人間に害を与えるフィトンチッドは発散されていない。
筆者は、人間に害を与えるフィトンチッドを、植物がやがていつかは発散するのであろうかという疑問を一旦は示すが、人間の知恵はそれをはるかに上回り、やがて人間はそれを薬物に換えてしまうであろうという。トリカブトの毒のように。

最後は歴史や宗教との関係。
筆者は、日本の山岳宗教は、そこに生えている樹木と切り離しては存在し得なかったし、それあるが故に、今日まで長く受け継がれてきたのではないかと思うようになったという。
シルクロードの地で栄えた仏教が緑を失い砂に埋もれてしまい、ついには、その宗教も地上から姿を消したことを対比する。これも歴史が証明する森林のひとつの効用なのであると。

何度も出てくる言葉が「馥郁たる森の香り」。「馥郁たる」なんて最近は使わない言葉だよね。そう、子供の頃は、鉋くずの香りが自宅では嗅げた。アッシ的には父親の匂いかも。
最近、山に行っても、そういう気持ちで山の匂いを聞くことがなかったかも。そう、聞香。じっくりと森の香りと対峙してみようかなぁ〜。

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