登山の哲学/竹内洋岳

標高8000メートルを生き抜く 登山の哲学 (NHK出版新書 407)』を読んだよ。哲学風味がいいと思う。

筆者は世界の全ての8000m以上の山、14座に登った初めての日本人である竹内洋岳氏。恥かしながら、筆者のようなプロ登山家がいたということを始めて知ったアッシ。山は好きだけど、8000mという高所登山にはあまり興味がないってこともあるんだけど。
副題は「標高8000メートルを生き抜く」というもの。そう、8000mの世界は生き抜くという言葉が相応しいかも。本書をさらっと読んでしまうと、あっという間に14座の登頂に成功してしまったかのように思えてしまう部分もあるだけど、丁寧に読んでみるとそれは全くの勘違い。8000mの頂というものは、深い意味の底にタッチするようなもの。つまりは、そこに長時間居ることはできない場所ということ。筆者は、

一刻も早く戻らなければ自分の生命が危険にさらされる場所ーー。そういう意味で、8000メートル峰の頂上は、深い海の底に似ていると思うのです。
と言っているよ。そう、アッシが登るせいぜい2000m程度の山で、そういう感覚になったことはないからなぁ〜。

で、哲学らしい言葉としては、「登山は想像のスポーツである」と。

頂上まで行って、自分の足で下りてくる。ただ、そのために、登山家はひたすら想像をめぐらせます。無事に登頂する想像も大事ですが、うまく行かないことの想像も同じように大事です。死んでしまうという想像ができなければ、それを回避する手段も想像できません。私たち登山家は、どれだけ多くを想像できるかを競っているのです。
と説明しているよ。アッシの登山に想像はあるのか…。一応、あるように思うけど。コースタイムとかこれから先のコースのこととか、帰りのバスの時刻に間に合うかとか…。

そして、最後は日本の古い登山からの脱却。ハッキリは書いていないけど、莫大な費用と集団で登る登山を古いステージだと定義し、日本人の登山がそこに戻らないようにすることが自分の役割であると筆者。ここがプロ登山家を意識しての発言だよね。

さぁ、夏山シーズンだ。どこに行こうかなぁ〜。

標高8000メートルを生き抜く 登山の哲学 (NHK出版新書 407)
標高8000メートルを生き抜く 登山の哲学 (NHK出版新書 407)竹内 洋岳

NHK出版 2013-05-08
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激走!日本アルプス大縦断/NHKスペシャル取材班

激走! 日本アルプス大縦断 密着、トランスジャパンアルプスレース富山~静岡415?』を読んだよ。人間業とは思えない。

2年毎に開催される「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」という山岳レース。本書は、このレースをNHKが取材し、NHKスペシャルで放送後、書籍化したもの。

このTJARというレース。半端なく凄い。富山県日本海側海岸から出発し、北アルプスを越え、さらに中央アルプスを越え、もちろん南アルプスも縦走し、最後は静岡県の太平洋側海岸にゴールするというもの。全行程415km。これを8日間で走破すれば、完走。当然、アッシには無理な話で…。

2012年の大会は参加者が28名。彼らのレースの様子を事細かに取材し、伝えているのが本書だけど、「なぜ走るのか?」という究極の問いをも探り出しているよ。もちろん、その答えは人によってさまざま。明確な答えもない場合もあるし。そう、結局、理由なんてないのかもしれないよね。
ある選手がゴールの直前でつぶやく。

「なんだったんすかねー、この5日間。ほんと……なんだろう……」
と。うん、本当にそう思うと思う。それを考えながら走るんだと思う。
その直後に、南アルプスに入る前にその選手が「わくわくする」と言っていたことについて話しかけると、
「済まなかったですね。わくわく……じゃなかったですね。わくわくだけじゃ済まなかったですね。でもそこで勉強させてもらうことがあったんで、それがあるからいいのかな?」
何となく不思議な心境。走りながらのインタビューなので、まとまった話にはならないけど、そのままの心情を伝える言葉なんだろうね。

完走したのは18名。タイムオーバーでもゴールした選手が1名。

勝敗に関係なく、自分自身のために走り抜いたのだから。
とこの選手を賞賛する。この選手が本当の勝者なのではないか…とも。

「何のために走るのか?」
生きるということは、走り続けることなんじゃないかなぁ〜と思わせられる一冊でした〜。

激走! 日本アルプス大縦断 密着、トランスジャパンアルプスレース富山~静岡415?
激走! 日本アルプス大縦断 密着、トランスジャパンアルプスレース富山~静岡415?NHKスペシャル取材班

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なぜ日本人は落合博満が嫌いか?/テリー伊藤

なぜ日本人は落合博満が嫌いか? (角川oneテーマ21)』を読んだよ。アッシは好きだけど…。

図書館で借りてから気がついたけど、筆者はテリー伊藤。どうしてこんなテーマの本を書く気になったのかがよく分からないけどね。それでも、図書館の予約はいっぱいだったよ。
内容的には、落合博満の生き方を通して、現代の日本人の生き方を憂えるっていう感じ。つまりは、日本人がポリシーがないというか、迎合的というか。そう言われると、納得できるような気がするよね。

では、落合博満はどんな人間なのだろう。筆者はこんなことを書いているよ。

落合は嫌われることを恐れないからだ。これは、日本人にとって、もっとも難しいことである。
そう、だから理解できないんだろうね。理解できない人は好きになれない。極端な場合は、嫌われる。そういう構図なんだろうね。

マスコミに対する態度も同じ。寡黙。サービス精神のかけらもない。「プロ野球なんだから…。」と言う人もいるけれども、落合監督は「勝つ」ために、しゃべらない。
2009年の日本シリーズでの、投手交代もしかり。「勝つ」ために、野球をしている。監督という仕事をしている。やっぱり、仕事師なんだよね。それが日本人には理解できないわけで。

冒頭にも書いたけど、そういう仕事師の姿勢を貫く態度がアッシは好き。やっぱり、ドラゴンズファンとしては、ドラゴンズが勝ってほしいから。そのために仕事をしているんだから。ホームランを見たいわけでもなく、派手なパフォーマンスを見たいわけでもない。

それにしても、テリーさん。よくこのテーマで本を一冊書けたと思う。長嶋茂雄と絡ませるのは、どうかとは思うけど、落合博満自身が長嶋茂雄との関連が強いとなると仕方がないのか。どうも、アッシは長嶋茂雄にピンとこないクチだから。

なぜ日本人は落合博満が嫌いか? (角川oneテーマ21)
なぜ日本人は落合博満が嫌いか? (角川oneテーマ21)テリー 伊藤

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教えない教え/権藤博

教えない教え (集英社新書)』を読んだよ。「権藤、権藤、雨、権藤」って知っているかなぁ〜。

ドラゴンズファンとか、古くからのプロ野球好きなら知っているはずの、冒頭のフレーズ。このフレーズの主人公・権藤博氏が本書の著者。元中日ドラゴンズの投手で、現役引退後は、コーチを経て、横浜ベイスターズの監督になり日本シリーズで優勝という経歴。現在はプロ野球解説者。現役生活が短かったこともあり、アッシは権藤氏の現役時代は知らず。
本書はその権藤氏のプロ野球人生を基盤にした人生訓といった内容。「べからず集」とは言っているけれども、読んでみるとそうでもなく、そうすべきだという事例も多いよ。

元々、コーチ時代から、権藤氏の指導は放任主義というイメージだったけど、その理屈が本書から読み取れるよ。例えば、

指導者に求められているのは”厳しく接する”ことではなく”厳しさを教える”ことなのだ。
とか、
メジャー・リーグのコーチの教えに Don't over touch という言葉があるように、教えすぎも禁物である。選手にとって必要のない教えは、その選手の成長を促すことは決してない。
と、「教えない教え」の極意を披露。単に放任主義であるとは言っていないよね。

さらに、選手ひとりひとりがプロとしての自覚を持っているチームは強いと言っているよ。これは、今中慎二氏の『中日ドラゴンズ論』にも登場する”プロとして当たり前のこと”にも通じる考えでもあるような。一般の企業でも同じなのは自明のこと。

前半はプロ野球に関連する話題がほとんどだけど、後半以降は一般社会で通じる話が多くなる。
ここでの注目は「ぶれない軸」の話。上司たるものぶれない軸を持つことは常識だけど、その意味を次のように示唆する。

「何がなんでも自分の選んだルートを辿れ」ということがぶれない軸なのではない。どんな状況にあっても決して目標を変えないのがぶれない軸なのである。
やっぱり、ここでも目標主義。特にプロ野球の場合は優勝するという明確な目的があるから、目標が立てやすいよね。でも、目的そのものがぶれることが往々にしてあるわけで。そうなるとそれ以前の話か…。

プロ野球監督としての肩書を差し引いても、処世訓としては、極々普通の話が多かったかな。それでも、元中日ドラゴンズ選手というモードにはついつい反応してしまうアッシでした〜。

教えない教え (集英社新書)
教えない教え (集英社新書)権藤 博

集英社 2010-11-17
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中日ドラゴンズ論/今中慎二

中日ドラゴンズ論 (ベスト新書)』を読んだよ。今中の快投ぶりが懐かしい。

筆者は今中慎二氏。ドラゴンズの元エース。選手生命は短かったけど、その投球は、スローカーブ快速球を駆使して、まさに快投だったなぁ。書籍的にも大きな書店では平台に並べられて、結構売れているみたい。ドラゴンズ物の本にしては珍しい扱いだよね。

さて、本書。
2010年のシーズンを振り返って、ドラゴンズの強さの秘密を今中氏なりに解説するというもの。ついでに、ドラゴンズの伝統的なものにも触れているよ。

さて、ここ10年ほどの間、ドラゴンズの強さを発揮しているシーズンが多いよね。それも落合監督になってから、さらにその印象が強いよ。事実、常にAクラスを維持しているわけだけど、その常なる強さの理由は何だろうかという疑問から本書は始まる。実はその理由はまさにシンプルなもの。

「プロにとって当たり前のことをしているだけ。それが中日の強さ」
という落合監督のコメントがそれ。答えはシンプルだけど、じゃあ具体的にはどうなんだろうということで、本書が楽しめるわけ。
そして、筆者の見解は、この当たり前のことができる選手やチームが本当に少ないということ。その裏付けとして、阪神から移籍してきた関川と久慈のコメントや、横浜と楽天での経験がある中村の話があるよ。そんなものなのかなぁ〜、弱小球団って。でも、それってファンに対しての裏切りみたいなものだよね。

最後は筆者自身のこと。

ちなみに私がこんなことを言うと、「お前は投げ過ぎで肩を壊したんだろう」と言われそうですが、そうではありません。本当の理由は心にしまっておきますが、投げ過ぎで肩を壊したわけではないことを記しておきます。
と言っているよ。そう、若くして引退した今中。気になるコメントだよね。「燃えよ!ドラゴンズ」にも「今中待っている」という歌詞があったよなぁ〜。
中日ドラゴンズ論 (ベスト新書)
中日ドラゴンズ論 (ベスト新書)今中 慎二

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山の遭難/羽根田治

山の遭難―あなたの山登りは大丈夫か (平凡社新書)』を読んだよ。ズバリ、アッシも中高年登山者。

文字通り、山の遭難に関するリスクマネジメントの本。今年は熊との遭遇が話題になることが多いけど、野生動物とのトラブルも、まさに山でのリスクだよね。それで、遭難することはないだろうけど。

まずは、山の遭難を考えるに当たって、過去の事例から。と言っても、登山がブームになるのは戦後。それ以前は、本当の山の精鋭だけの世界だったんだよね。加藤文太郎や松濤明が有名どころだけど。あと『聖職の碑』とか。

そして、戦後。いくつかの登山ブームを経て、現代は中高年中心の登山ブーム。だから、当然中高年の遭難が増えるわけ。中高年の遭難率が高い訳ではなく、絶対数の問題。だから、若者登山者が増えれば、それなりに若者遭難者も増えるだろうと予想。近頃は山ガールが増えていると言われているけれども、山ガールの遭難なんてカッコ悪いなぁ〜。

では、中高年の遭難が増えている要因は何か。
それは知識や技術不足なんだけど、結局それを継承する組織に属さぬまま、見よう見まねで山をはじめてしまったことが要因であると分析しているよ。高校や大学での山岳部の衰退は、アッシが子供の頃から始まっていたからね。

それに連動して、登山者の意識の変化。主体的ではなく、連れていってもらう…という受動的な態度。百名山ブームもこの受動的態度の登山者がもたらしたものであると。この受動的態度は、近年の登山ツアーの多さにも表れているよね。合わせて、登山ツアーでの遭難も、目立っているし。逆に、ツアーだからこそ、遭難になりやすいとも言えるのかもしれないね。

さて、アッシの場合。
知識や技術の継承は、ボーイスカウトで。ツアーにも参加しないし、百名山にもそれほどこだわらず。確かに体力の低下はあるかもしれないけど、それよりも心配はやっぱりクマ〜かなぁ〜。

山の遭難―あなたの山登りは大丈夫か (平凡社新書)
山の遭難―あなたの山登りは大丈夫か (平凡社新書)羽根田 治

平凡社 2010-01-15
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海も天才である/中村征夫

海も天才である (角川文庫)』を読んだよ。でも、海はやっぱり怖いと思う。

中村征夫氏、2冊目。前回の『全・東京湾』東京湾というテーマに絞って、それに沿って著者の自伝的な側面があったけど、今回は海に纏わる本格エッセイ。海を知り尽くしている筆者ならではの話題が満載で、山指向のアッシもグイグイ引き込まれていく読み物だよ。

まずは筆者の海に向かうスタンス。

何もかも揃って、文明がこれ以上発達のしようがないほど豊かなこの世の中に、われわれ人間が絶対にかなわない世界があるということは、人間の驕りをなくす意味でもとても大切なような気がする。
人間は海に敵うわけがない。というか、自然に敵うわけがないんだよね。

そして、地上の生物と海の生物の比較が面白いよ。
地上の生物は、人間のほうが自分たちより利口で且つ残酷であることを知っているから、人間が現れると身を隠したり、逃げたりする。一方、海の生物は、人間が近づいても逃げたり隠れたりしない。

人間は完全に魚や他の生物に馬鹿にされているようだ。というよりも、遊ばれているといったほうが正しいかもしれない。
地上と水中では立場が逆転。そういう意味でも、人間は自然に勝てるわけがないよね。

そして、本書の山場は、「奥多摩湖一家六名行方不明事件」。昭和51年の事件だけれども、一家六名の捜索で、奥多摩湖に潜水する筆者。そのドキュメンタリーが息も尽かせぬ雰囲気で綴られているよ。特に車のナンバープレートを撮影する場面に至っては、自分自身が奥多摩湖の湖底の現場に立ち会っているかのように思えるほど。まさに、筆者の必死さが伝わってくるシーンだよ。

海は怖い。でも、それでも潜ってみたい気持ち。それだけ、魅力があるんだろうね。
そうそう、山との違いは生物の多さだよね。山は植物、海は魚。種類はどっちが多いんだろ。それぞれに遭遇する可能性はどっちが高いのかなぁ。いや、比較すること自体、間違いかもね。どちらも、人間は敵わないわけなんだから。

海も天才である (角川文庫)
海も天才である (角川文庫)中村 征夫

角川書店 1992-07
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