海も天才である/中村征夫

海も天才である (角川文庫)』を読んだよ。でも、海はやっぱり怖いと思う。

中村征夫氏、2冊目。前回の『全・東京湾』東京湾というテーマに絞って、それに沿って著者の自伝的な側面があったけど、今回は海に纏わる本格エッセイ。海を知り尽くしている筆者ならではの話題が満載で、山指向のアッシもグイグイ引き込まれていく読み物だよ。

まずは筆者の海に向かうスタンス。

何もかも揃って、文明がこれ以上発達のしようがないほど豊かなこの世の中に、われわれ人間が絶対にかなわない世界があるということは、人間の驕りをなくす意味でもとても大切なような気がする。
人間は海に敵うわけがない。というか、自然に敵うわけがないんだよね。

そして、地上の生物と海の生物の比較が面白いよ。
地上の生物は、人間のほうが自分たちより利口で且つ残酷であることを知っているから、人間が現れると身を隠したり、逃げたりする。一方、海の生物は、人間が近づいても逃げたり隠れたりしない。

人間は完全に魚や他の生物に馬鹿にされているようだ。というよりも、遊ばれているといったほうが正しいかもしれない。
地上と水中では立場が逆転。そういう意味でも、人間は自然に勝てるわけがないよね。

そして、本書の山場は、「奥多摩湖一家六名行方不明事件」。昭和51年の事件だけれども、一家六名の捜索で、奥多摩湖に潜水する筆者。そのドキュメンタリーが息も尽かせぬ雰囲気で綴られているよ。特に車のナンバープレートを撮影する場面に至っては、自分自身が奥多摩湖の湖底の現場に立ち会っているかのように思えるほど。まさに、筆者の必死さが伝わってくるシーンだよ。

海は怖い。でも、それでも潜ってみたい気持ち。それだけ、魅力があるんだろうね。
そうそう、山との違いは生物の多さだよね。山は植物、海は魚。種類はどっちが多いんだろ。それぞれに遭遇する可能性はどっちが高いのかなぁ。いや、比較すること自体、間違いかもね。どちらも、人間は敵わないわけなんだから。

海も天才である (角川文庫)
海も天才である (角川文庫)中村 征夫

角川書店 1992-07
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starもう少しエピソードを掘り下げて欲しい
star水中写真家が語る海の魅力

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