この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう/池上彰

この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう』を読んだよ。社会に出るために必要なこと。

池上さんの東工大講義シリーズの第3弾。これで最終回ということで、テーマは「世界篇」。とはいえ、世界の中の日本なわけだから、世界から見た日本とか、日本から見た世界とかいう観点もあり、憲法とか、メディアとか、宗教の話も有り。

ということで、今回は自分的に気になったトピックを紹介。まずは、自衛隊違憲問題。
事例として、1976年の札幌地裁の判決について、

自衛隊の設置は「高度の専門技術的判断とともに、高度の政治判的断を要する最も基本的な政策決定」であり、こうしたことは「統治事項に関する行為であって」「司法審査の対象ではない」というのです。
と池上さん。いや、裁判所が決めなければ誰が決めるんだということになるよね。池上さんは、裁判所は「違憲立法審査権」を使わなかった。つまりは判断を逃げたのだと解説しているよ。おっしゃる通りだと思うけど…。

もう一つは年金問題。年金はそもそも保険なのだと解説。

保険ですから、「受け取れないのは損だ」という発想は、本来おかしいのです。たとえば生命保険。「もらわなければ損だ」といって早く死ぬ方が得という考え方はおかしいですね。損害保険の保険金がもらえるように自動車事故を起こそうとは、普通の人は考えません。
なるほど、これで年金の考え方がスッキリするよね。いや、勘違いしている人が多すぎるのが問題なんだけど。

最後に池上さんお贈る言葉

個人と企業、社会の「幸せな関係」とはどうあるべきなのかを考えてほしいと思います。この「幸せな関係」を築けない企業は、グローバル化の中で衰退していってしまうのだと思います。
そう、働き方改革とか在宅勤務とか、今こそそれを真剣に考える時代になってきているね。それが社会を作るということなんだと思う。

はじめての経済学/伊藤元重

はじめての経済学 (日経文庫)』を読んだよ。改めて経済学。

『吉野家で経済入門』で筆者の伊藤先生を知り、その後もJMOOCの講座などで伊藤先生の語り口とわかり易さに、池上さんに通じるものがあるのを感じていた自分。その伊藤先生の教える経済学の超入門という感じなのが本書。超入門と言いながらも、日経文庫で上下巻2冊なので、経済学について広く学べるし、読み応えも十分にあり。

上巻は経済学の基礎。アダム・スミスの『国富論』から始まる。

スミスが『国富論』を書いてから二百年、世界の通商政策や経済政策においては、自由貿易主義と保護主義の闘いの連続であるといってもよく、その中でさまざまな経済理論が生まれてきました。この問題はまだ決着がついているわけではなく、先に触れた反グローバリズムの動きなども、新たな形の保護主義のあらわれであると見ることもできるでしょう。
ということなんだけど、本書を読むと、まさにこの二つの主義の闘いを分析するのが経済学なんだということが分かるわけ。このトレードオフの二つの考え方を様々な仕組みで調整していく活動があるわけで、それらを理論的に捉えていくってことなんだよね。

そして、マクロ経済学ミクロ経済学の話。

経済学の基礎を成すのは理論的な分析です。この本でもマクロ経済学ミクロ経済学という、経済学の最も基本的な理論について学ぶわけですが、この経済理論には、高度で精緻な数理的分析から、数理的な分析によらないより深い思想的な考察まで非常に幅広いものが含まれています。
と経済学の幅の広さを説明する。とは言え、本書にはグラフで説明する箇所も多く、やっぱり数理的分析の方が理解できるし、説得力があるかな。

そして、自分が合点したのは、

雇用、労働、技術、資金を例にとって説明したように、多くの経済活動は企業の内部で組織的な形で行われていると同時に、企業を超えた市場でもさまざまな形で行われていることがわかると思います。企業の経営にとって重要な問題は、さまざまな経済活動のうちのどの部分を自らの組織の中で行い、どの部分を外の市場に求めていくかを判断することです。
ということ。様々な経済活動があり、国内のみならず海外との関係も視野にいれなくてはいけない中で、どうぞれらを組み合わせていくか。おや?やっぱり最適化とか、本書の中に出てきたゲーム理論の問題に落とし込めるってことなのかな?

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新釈 走れメロス/森見登美彦

新釈 走れメロス 他四篇 (角川文庫)』を読んだよ。メロスの本当の気持ちはわからない。

森見登美彦氏のKindle本を一気に3冊も買って積ん読にしていたけど、最近になって徐々に読み始めて、ついに3冊目。3冊も読むと、森見氏の論調というか、傾向と対策が読めてくる。それが癖になるかならないかが、4冊目に手を出すかどうかの分かれ目になるんだけど…。

本書は表題作の他4篇の短編集。とは言え、5篇が微妙に絡み合っていて、登場人物が主人公になったり、脇役になったり。特に、最初の「山月記」に登場する斎藤秀太郎という人物は本書全体として象徴的な人物として位置づけられているような…。その斎藤という人物。

人間の文明というものは、突き詰めればただ言葉と数学のみに拠っている。数学を選ばぬ以上、言葉を極める人間が最もエライに決まっていると彼は言った。それゆえに俺はエライに決まっていると。
と、甚だ勘違い野郎として描かれているよ。そう、この勘違い野郎が森見氏の小説の傾向と対策の肝になる。

さらには、

何者にも邪魔されない甘い夢を見続けていたいがために、いつ果てるとも知れない助走を続けて、結局俺は自分で自分を損なったのだ。
と青春にありがちな甘い思いをいつまでも引きずっている感じ。いや、それが青春そのものなんだろうけど。

桜の森の満開の下」では、

なぜならば、奇想天外な品々に囲まれて息をひそめ、好きなように文章を書き散らしていると、時折、もうどうしようもなく、幸福で幸福でたまらない気持ちになるからでした。いつまでもこの時間が続けばよいと思えるからでした。
とも。あぁ、これも人生が一生続くと勘違いした青春の大きな勘違い。そうそう、自分もそんなようなことを考えていたっけ。それを思い出させてくれたのもこの小説もおかげだね。

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大学はもう死んでいる?/苅谷剛彦,吉見俊哉

大学はもう死んでいる? トップユニバーシティーからの問題提起 (集英社新書)』を読んだよ。もう一度、大学とは何か。

副題は「トップユニバーシティーからの問題提起」。ここでのトップユニバーシティーとは、苅谷先生のオックスフォード大学と吉見先生の東京大学のことなんだと思う。ということで、本書はこの二人の先生の対談をまとめたもの。大学を取り巻くあれこれを話しているけれども、テーマは結局は「大学とは何か」に尽きると思う。

では、どのような対談になっているのか。まずは、ビジョンの話。

いずれにしても、さっき言ったように、大学は何を目指すのかという軸をちゃんと設定して、大学人が意識を変えるということが求められています。日本の大学人の間で、大学にとって最もクリティカルな問題は何かというところをゆるやかにでも合意形成しないと、ゴールを設定することもできません。
と苅谷先生。これが右往左往して社会、特に経済界に踊らされていく。その構図を変えていかない限り疲弊するだけだよね。

そして、「大学」と「ユニバーシティー」の違い。

要するに、ユニバーシティーで目指しているのは知識の伝達ではない。知識の伝達も必要ですが、与えた知識を通してどれだけアーギュメントできる人間を育てるかということがゴールなのであって、だから科目も少なくていいということになります。
あぁ、ここでもやっぱりゴール設定の問題。ゴール設定が違うから手法が異なっているんだよね。「大学」はあれもこれも教えなくちゃ…という議論が先行していないか?

もう一つは「グローバル人材」。

少なくとも、本当にグローバルに通用するような人は日本の国益に貢献する必要はなくて、人類に貢献すればいいんです。つまり、グローバル人材というのは人類に貢献する人たちの集団であって、貢献の宛先は日本のナショナリズムを超えていいのです。
と苅谷先生。うん、この視点はいいよね。日本のグローバル化の考え方の狭さが見えてくる。やっぱり、目先の利益に囚われた発想ではダメだな…。

「大学」が死んでいるとは思わないけど、生き生きと活動できる教育システムであってほしいよね。

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深海生物学への招待/長沼毅

深海生物学への招待 (幻冬舎文庫)』を読んだよ。光合成だけではなく。

辺境生物学者とかいうタイトルでNHKのTV番組「爆問学問」に登場したことのある筆者・長沼毅氏。番組では科学界のインディ・ジョーンズとか言われて、世界各地の辺境地を旅する姿が紹介されていたような…。
そんな長沼先生が辺境の地の一つである深海に生息する生物とその特徴を紹介するのが本書。特にチューブワームという深海底に生息する奇妙な生物がどのような生態なのかを明らかにするよ。

では、深海の生物を発見する意義はどんなところにあるのだろうか。

いや、熱水生態系の発見が有する本当の意義は、単に深海観を変えたことではなく、むしろ、われわれの生態観を変え、生命観を変え得ることだろう。それは、従来の「太陽に依存した生命」に対抗する新しい生命パラダイムを提唱することであり、地球生命の誕生と進化あるいは宇宙における生命の考察に新たな視座を与えることである。
要は、光合成による生命の糧の生産のパラダイム以外にも食物連鎖の軸があるということ。その代表が前述のチューブワームというわけ。だからこそ、チューブワームを研究する意義があるんだよね。

そして、生物の生態の話だけに留まらず、地球そのものの生態に発展していくよ。

世界最深の湖、シベリアのバイカル湖でも湖底にバクテリア・マットや生物コロニーが観察されており、湖底熱水活動が示唆されている。バイカル湖はもともと大陸の割れ目(地溝帯)の湖なので、海底の割れ目(リフト)に熱水活動があるように、バイカル湖に熱水活動があっても不思議ではない。
プレートテクトニクスだ。この地球の構造があるからこそ、生命誕生の基盤があるということだよね。

さらに話は宇宙に進展する。

地球以外の天体における熱水活動、それは地球以外の天体における生命の可能性を示すものである。今までわれわれは生命といえば太陽の恩恵の賜物と思ってきたが、宇宙規模で考えると太陽の恩恵とは無関係の生命のほうが実はふつうなのかもしれない。
これこそ、パラダイムシフト。普通と思っていたことは普通でないかもしれない。チューブワームのおかげかも。そう考えるとチューブワームが好きになりそうだね。

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キャッシュレス覇権戦争/岩田昭男

キャッシュレス覇権戦争 (NHK出版新書 574)』を読んだよ。電子マネーだけではなく。

いわゆるスマホ決済が普及し始めたのは去年。消費税増税に伴うキャッシュレス還元もその契機になったんだと思うけど、PayPayの還元大キャンペーンも普及に大きく貢献したのだと思う。自分自身も電子マネーは使っていたけど、QRコードは使っていなかったから。

そんなわけで、本書のテーマはキャッシュレス。2019年2月の発刊だから、今となってはちょっと古いという感じもするけれども、最新情報よりもそもそものキャッシュレスの狙いとか、キャッシュレス先進国である中国の事情とかが十分に参考になるよ。
では、その事情とは何か。

中国やインドでは、ATMが近くになく、現金を引き出すのが大変だという理由で、地方からQRコード決済が増えていったという。日本にも同じように、QRコードによるキャッシュレス化が、地方から一気に進んでいく可能性がある。
と筆者。この他にも、都会から来た観光客がキャッシュレスを求めていることなどもあるようだけど、どうなんだろ。未だに日本人の現金への信頼は大きいように思うし、キャッシュレス化への対応がどれだけ売上げに貢献するのだろうか。

そして、もう一方のキャッシュレスの狙いとは。ユーザの利便性はもちろんだけど、その代償としての個人情報の問題。それが、個人の信用情報となり、格付けされていく社会。

プラットフォーマーが国民を格付けし、その格付によって富める者と貧しい者が広がっていく信用格差社会の出現だ。
と。そう、それは既に始まっているんだよね。そして、キャッシュレスにせざるを得ない社会になっていくんだと思う。キャッシュレスとどう付き合っていくか、もう現金は持ちたくなくなってきているのは自分だけではないはず…。

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新聞記者/望月衣塑子

新聞記者 (角川新書)』を読んだよ。権力との戦い。

映画『i-新聞記者ドキュメント』を観て初めて知った筆者。映画の冒頭では取材ターゲットに対して執拗に食い下がり、コメントを求めようとする筆者が映し出され、その迫力に圧倒される。本書はその筆者、望月衣塑子が自身の生い立ちから取材に対する考え方、そして、実際の取材をドキュメントとしてまとめたもの。

本書の冒頭は筆者の新聞記者になるまでのストーリー。官房長官の記者会見での質問で出る大きな声と度胸は、演劇で鍛えられたものだったのか…。
その記者会見について、

権力者に対して記者が質問をぶつけることは当たり前のことで、本来であればもてはやされるようなことではないが、今や権力にモノを言えないところまで来てしまった。ジャーナリズムとはかっこいい言葉だが、その限界値が見える気がした。
と筆者。権力とメディアのバランスが崩れていくということか。何を言っても、どこ吹く風は今でも変わらないような…。

そして、東京新聞中日新聞)に入社。記者として、千葉、横浜、埼玉のそれぞれの支局でバリバリと取材をし、内勤の整理部も経験。日歯連の不正献金事件から始まり、森友学園、さらには加計学園の問題まで鋭く切り込んでいく筆者。そして、見えない権力との対峙となっていく。怖いわ~。
そんな中で筆者の打開策は、

紙と電波、あるいは新聞と雑誌といった垣根を飛び越えて、メディアが横方向でつながっていくことが状況によっては必要なのではという考えは、安倍政権になってさらに強くなった。
ということ。メディアミックスとはInternetの時代になり、さらに加速しているように思えるけど。

最後に、

私は特別なことはしていない。権力者が隠したいと思うことを明るみに出す。そのために、情熱をもって取材相手にあたる。記者として持ち続けてきたテーマは変わらない。
と。基本姿勢を貫く姿は素敵です。

新聞記者 (角川新書)
新聞記者 (角川新書)
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