言ってはいけない/橘玲

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)』を読んだよ。でも、堂々と言っている。

本書の続編が本屋に山積みされていたのに刺激されて、まずは最初の一冊。「新書大賞2017」とやらを取ったみたい。当時はまったく気にしていなかったのはなぜだろ。
副題は「残酷すぎる真実」ということで、世界中の研究成果から、何が見えてくるのか…ということを3つの観点からまとめたもの。3つと言っても、結局は「氏なのか、育ちなのか」という議論に行き着くんだけどね。

では、実際にその「残酷すぎる真実」とはどのような内容なのか?具体的なことをここでは書かないけれども、それを書くということはどういうことなのか?という点で言うと、

ワトソンの発言がスキャンダラスなのは、誰もが密かに思っていることを堂々と口にしたからだった。
ということ。そう、多分こうなんだろうな…と思っていることはたくさんある。でも、それが真実なのかどうかははっきりしない。それが、様々な差別に繋がる事柄ならば、余計に口には出さない。でも、つい、それを発言してしまう人がたまにいる。それが、前述の「ワトソンの発言が…」ということになるわけ。

容貌のタブーについては、

私たちの日常的な判断は、視覚(見かけ)に大きく依存しているのだ。
という結論。そう、見かけで刑罰の重さが変わっているという統計的な事実。にわかには信じがたいが、人間の判断なんてそんなものかいうのも分からないではないよね。

最後は、子育ての話。統計的には「氏より育ち」は否定的な結論。

もちろんこれは、「子育ては無意味だ」ということではない。人生とは、もともとそういうものなのだから。
とフォローしているよ。

でも、統計が「真実」なのだろうか…とも思う。データサイエンスって流行っているし、正しい判断の基準にはなると思うけど…。真実って一体何なのだろうか…という命題が気になる一冊でした~。

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)
橘 玲
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就活のコノヤロー/石渡嶺司

就活のコノヤロー ネット就活の限界。その先は? (光文社新書)』を読んだよ。バカヤローとの違いは何だ?

『就活のバカヤロー』の続編という位置付けだけど、バカヤローの時代とそんなに変わっていないのが就活。変わっていないというか、コロコロ変わって、何が正しいのか分からないという状態が続いているというのが正しい解釈かも。そう言ってしまうと、本書の意味もなくなり、身も蓋もない。だから、本書の内容を一応説明しておくと、時代が変わり、就活をめぐる四者がそれぞれに創意工夫しながら悪戦苦闘している様子を今回もルポしたものといえるよね。ここでは、ルポであるということが重要で、本書に就活ノウハウを求めてもいけないし、学術的な知識とか教養も求めてはいけない。そう、ルポだから。楽しみましょう!

では、就活事情の本質とは何か?

売り手市場なら売り手市場で企業が早めに動く。買い手市場なら買い手市場で学生が焦って早めに動く。この論理もまた、大正時代から現在に至るまで全く変わりない。
そう、これだよね。社会の動向で動きが変わるわけだから、コロコロ変わって当たり前の世界。いい悪いは別ってこと。その時に最適な動向をそれぞれが察知して動くんだからね。就職協定はいつも後手後手ってこと。

もう一つは「大学の勉強ムダ論」について。

大学・学部・研究内容はともかく、何か1つのテーマをしっかり勉強していれば、多少なりとも論理的思考能力は身に付くだろう。それは、教養や社会常識などについても同様だ。そういうものが身に付いていれば、仕事において大所高所から色々なことを判断するのに役立つだろう。それなら高い給料を払う価値があるーーこのように企業は考えるのだ。
と解説しているよ。つまりは、ムダどころがしっかり勉強する必要があるってことだよね。勉強した内容ではないという点がポイントだけど。

最後は、欄外情報の「内定者・社会人が後輩学生に伝えたいこと」から引用。

「こういう仕事がしたい」という就活中の思い、それができない現実。でも、矛盾しているわけではなく、新しい仕事が面白い今日このごろ。
うん、これも鋭いところを言い当てているような。これこそ、学生には分からない、社会人の楽しさなんじゃないかなぁ~。

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石渡 嶺司
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目の見えない人は世界をどう見ているのか/伊藤亜紗

目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)』を読んだよ。ものの「見かた」はいろいろ。

どうしてこの本が読みたい本リストに入っていたのか、記憶になし。でも、何かの本に参考文献として書かれていたのだろうと思う。自分にしてはいつも読んでいる本とは傾向が違うもの。それでも、誤解を恐れずに言うと、本書は非常に面白かった!あぁ、本書を読んだ後では「誤解を恐れず」なんて言うことが、ナンセンスと思うんだけど…。

本書は、視覚障害者の人たちが、目が見えない中で世界をどのように把握しているのか、そして、見える人たちとどのように違うのかを解説したもの。そういう意味で純粋な身体論ということ。筆者は生物学かもと言っているし。そして、見える人たちにとって、多少の想像はできるけど、実際はどうなのかというと、まさに驚きの連続。「そう捉えるか!?」という感じ。

「見えないこと」を考えるにあたって、注意しなくてはならないのは、「情報」と「意味」。「見えないこと」は情報不足と捉えてしまうけど、それは見える人たちの捉え方。少ない情報でもそこから意味を捉えることができれば、その人なりの世界が見えてくる。例として上がっているのは、4本足の椅子。これが3本足になった時にどうなんだろ。バランスさえ捉えられれば、3本でも椅子としては機能するわけで、その時の世界の見かたは変わってくる…ということ。「欠如」ではなくて「意味」が異なるということ。

そう考えていくと、「見えないこと」と「見えること」って何が違うんだろ…と。「見えないこと」の方が三次元的なイメージが広がったりするなど、事例を読むと納得することばかり。

最後に、

従来の考え方では、障害は個人に属していました。ところが、新しい考え方では、障害の原因は社会の側にあるとされた。見えないことが障害なのではなく、見えないから何かができなくなる、そのことが障害だと言うわけです。障害学の言葉でいえば、「個人モデル」から「社会モデル」の転換が起こったのです。
と、社会的な考え方の転換も紹介。うん、この発想はいい。この発想を忘れないようにしたいよね。

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伊藤 亜紗
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クリエイティブ・マインドセット/デイヴィッド・ケリー,トム・ケリー

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』を読んだよ。とにかく一歩を踏み出そう。

クリエイティブという単語でイメージするのは、芸術系ってことになりがちだけど、果たしてそうかな?と考えてみる。芸術家ではない、我々が創造性を発揮した時に何ができるかというと、それがイノベーション。だから、創造性を発揮してみようということになるんだけど、でもどうしたら?という問題。それを指南してくれるのが本書。

副題に「想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法」とあるけれども、創造性に必要なのが、この3つのキーワードという感じかな…。
そして、何度も登場するのが「創造力に対する自信」という言葉。前述のキーワードの一つの「勇気」だよね。さらに、

そして、 自分の創造力を信じることこそ、イノベーションの「核心」をなすものなのだ。
とも。勇気を持ち、できると信じること。うん、これって、行動を起こすための必要条件だよね。でも、躊躇することは多いんだけど…。

また、デザイン思考の考え方も登場する。ここでは、

人間中心の考え方は、イノベーション・プロセスの基本だ。人々に深く共感することで、観察を強力なインスピレーション源にすることができる。
と、「人間中心の考え方」と表現されているけれども、これはまさにデザイン思考の考え方だよね。

そして、創造力は個人だけのものでもなく、

私たちの知る非常にクリエイティブな企業はみな、会社のあらゆるレベルで創造力を促すような組織構造を築いているのだ。
と、組織的にも必要な力だよね。

創造力とイノベーションが結びつくのはよく分かる。でも、創造力を養うには一定の訓練は必要なんだよね。本書に登場するdスクールのような教育って、最近増えているような気がするな…。

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大いなる決断/柳田邦男

大いなる決断 (講談社文庫 や 2-1)』を読んだよ。高度成長期の原点。

柳田邦男のノンフィクションが好き。しばらくは交通事故関係が続いていたけど、今回は経済。戦後の混乱期を乗り越え、日本の経済人はそこからさらにホップするために、どんなことをしてきたか、そして、どんな結果になったのか。様々な人物を取り上げて、詳細にルポしているよ。そして、時代は昭和三十年代。

では、どんな人物、企業、業界が登場するか。まずは、松下電器松下幸之助。東洋レーヨンを代表する合成繊維産業。国民車として開発されたスバル360。日本企業として石油の採掘事業を興したアラビア石油。はたまた、石油化学コンビナートの構築とか、経団連の会長とか、ジャル・パックとか。

そして、どの事例にも共通するのがイノベーション。当時、イノベーションなどどいう言葉や概念はなかったと思うけど、他社より少しでも有利に事業を展開するにはどうしたらよいか、必死に考えた結果がそれぞれの成功に繋がっているよ。それがまさにイノベーションなんだよね。

経営哲学も相似形。例えば、プラスチック製品を加工し容器などを製造する吉野工業所の吉野社長。

誰にでも作れるものは、みんなが手がける。みんなが手がけて過剰生産になれば、値くずれが起きて、商売としては欠損を出すことになる。それは当たり前の理屈だが、まだ売れているときに生産から手を引く決断をするのは、できそうでなかなかできないことである。しかし、吉野の決断ははやく、ためらいがなかった。
と。真似のできない技術を追い、みんながやっていることはそこそこにする。商売の鉄則だとは思うけど、流行っているものを追っかけたくなるのが人情。っていうか日本人っぽい…かな。

最後に、あとがきで筆者曰く、

私なりの結論をいうならば、昭和三十年代は、経済大国となる日本の経済構造と生活様式のパターンが形成された「転換」の時代としてとらえるのが、よいのではないかと思う。それはまさに「経済元年」と呼ぶべき時代であった。「転換」期には、激動のドラマがある。
と。いや、ドラマを超えた現実が凄いんだけどね。その凄さは本書を読めばよく分かるよ。これがあったからこそ、今の時代があるんだよね。改めて、日本人って凄いなぁ~と思ったわけでした~。

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地図と愉しむ東京歴史散歩/竹内正浩

カラー版 地図と愉しむ東京歴史散歩 (中公新書)』を読んだよ。東京ワンダーランド。

今回もある意味で紀行文と言えると思うけど、グルメや温泉は無し。東京の地形や歴史的遺跡、建物などを訪ねて歩く旅。散歩じゃすまないレベルのものもあるけど。ちょっと、ブラタモリ風かな。タモリとの差異は、地図を読み解きながら…という点か。

では、どんな歴史散歩になるのか。
まずは公園編。上野公園の変遷が大きな話題になっていたけど、自分が気になったのは芝公園増上寺を中心として、明治初頭から公園に指定されていたけど、日本国憲法第89条により、社寺所有地を公園として管理することが不可能となったことで、公園の指定区域が大幅に減少したのだとか…。
筆者曰く、

寺社と園地が渾然一体となった昔日の面影はまったく失われたのである。地図を見るかぎり、戦前の方が公園としてのまとまりはよかったという気がしなくもない。
と。確かに昔の地図を見ているとそう思う。そもそも、自分は増上寺の周辺一帯が芝公園だと思っていたんだけど、違ったのね…。

そして、東京都の水道整備。東京の水源のひとつに多摩川水系があるけど、その多摩川の流域である三多摩地域が、明治26年までは神奈川県だったとか。これは初耳。そして、東京都に編入されたきっかけになったのが、コレラの流行と汚物投入事件。

そのため、たとえば水源部の不衛生などの問題があっても、東京府の行政権や警察権は直接三多摩地域におよばす、しばしば問題を生じていたのである。
ということ。三多摩地域は東京都と、当たり前だと思っていたことが、そうでなかったということがあるもんだね。

最後は川の話。
東京の東には、江戸川、荒川、隅田川という大きな川が流れているけれども、そのうち、最大の荒川は人工の水路だったとは…。自分は隅田川が荒川の放水路だと思っていたから…。ついでに言えば、利根川も大昔は東京湾に流れ込んでいたんだよね。

地図を見比べるだけでも、なんだか、驚くことばかりだなぁ~。

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フーテンのマハ/原田マハ

フーテンのマハ (集英社文庫 は 44-3)』を読んだよ。美術史小説というカテゴリがあるのか…。

紀行文は嫌いじゃないので、あれこれ目に入ったものを読んでいるけど、今回は以前に読んだ本に紹介されていたもの。何の本だったか忘れたけど。
もうひとつ気になったのは、「原田マハ」という著者。本屋に行くとこの名前をよく見かけるようになったから。

まずは冒頭で、

旅が好きだ。「移動」が好きなのだ。移動している私は、なんだかとてもなごんでいる。頭も心もからっぽで、心地よい風が吹き抜けていく。
と筆者。そう、コレコレ。自分も乗り物好きと称しているけど、本質的なところでは「移動」が好きなのかもしれない。いいなぁ~、あちこち移動できるなんて…。

では、著者はどこにどんな風に移動するのか。
前半は「ぼよグル(正式名称=ぼよよんグルメ)」と名付けられた著者の大学時代の友人との二人旅。四季折々の日本国内を、文字通りぼよよ~んと旅し、その土地の美味しいものを探して食べ歩くこと。まぁ、普通っぽいと言えばそうだけど、作家の筆に掛かると、それがそれなりに楽しい旅となって、文字化されるわけで。

そして、旅にもテーマがある。その一つが、

本書ならびに小説『旅屋おかえり』の取材のために出かけた旅で、我ながらもっとも興味深いテーマだったのが「あらゆる手段を使って移動する」というものだ。
というもの。おっ、これは面白い。実は自分も過去にこのテーマで出張に出かけたことがあったっけ。いや、面白かったのは事実。

最後はアートがテーマの旅。小説執筆の取材でもあるんだけど、

マティスもこんな気持ちだったのかな。モネは何を見ていたんだろう――と、想像を巡らせながら旅をする。だから、それがたとえひとり旅でも、ちっともさびしくはない。わくわくしながら、世界中、さまざまなアーティストを追いかけて、彼/彼女の原風景を追体験するために、旅をしているのだ。
と言っているよ。よくわかる、このワクワク感。だから、夢中になり、時間を忘れる旅。そして、自分の中にしっかりインプットされる旅。だから、それが小説にできるんだろうね。次は、著者の美術史小説とやらに挑戦してみようかな。

フーテンのマハ (集英社文庫 は 44-3)
原田 マハ
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