「科学者の楽園」をつくった男/宮田親平

「科学者の楽園」をつくった男:大河内正敏と理化学研究所 (河出文庫)』を読んだよ。誇れる日本の科学者たち。

色々と話題になっている理化学研究所。だからこそなんだろうけど、本書は1983年に単行本として刊行され、その後2001年に日経ビジネス人文庫で文庫化されたものを底本として、改めて文庫化したもの。出版ビジネスも抜け目がないよね。副題は「大河内正敏理化学研究所」。題名よりスッキリしているけど、あまりに直截的なのかな。

ということで、本書は理化学研究所の設立から戦後直後までの歴史を、その発展に寄与した大河内正敏(三代目所長)という人物を中心に綴ったもの。とは言え、理研に関わる人物は多数。しかも、有名な科学者たちも多数関わっているよ。有名どころで言えば、湯川秀樹朝永振一郎福井謙一ノーベル賞受賞者三人組。そして、政治家からは田中角栄までも。

では、理研とはどんな組織であったのか。
その創成期に大河内所長が言った言葉が、象徴的。

基金がなくなるまで思いきって、積極的にやる。いよいよお手上げになっても、研究成果さえあれば、政府も放ってはおくまい」
と。彼が物理学者でありながら、貴族院議員であったり、子爵であったりしたところが、このイケイケドンドン方針の要因なんだろうね。これが、「科学者の楽園」を生み、結果的には成功するんだけど。

その「科学者の楽園」とは何なのか。

大学では想像もつかない実験設備がととのえられ、研究のあり方に理解を示し、研究者を心の底まで信頼する 所長の存在が、彼らに、なにかをやらずにはいられない気分にさせたのだ。
と筆者。そう、本当に研究に専念できる環境と資金。これは科学者としては最高の楽園なんだろうね。

もう一つの重要な観点。理研の設立の目的として、

<人口の稠密な、工業原料その他物質の尠いわが国においては、学問の力によって産業の発達を図り、国運の発展を期する外はない>
とあるように、「模倣によらない独創技術」の開発ということ。これは現代でも変わらない命題だよね。

本当の先端技術は本来はこういう環境から生まれるものなんだと思う。政治家とかビジネスが絡んでくると話がややこしくなってしまうわけで…。そういう意味で大学というところは研究機関としては中途半端なところだね。

「科学者の楽園」をつくった男:大河内正敏と理化学研究所 (河出文庫)
「科学者の楽園」をつくった男:大河内正敏と理化学研究所 (河出文庫)宮田親平

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