宇宙創成

『宇宙創成』を読んだよ。もう全てが分かったような気になれる凄い本。

サイモン・シンの本は『フェルマーの最終定理』『暗号解読』新潮文庫から出ているけど、単行本で既刊の『ビッグバン宇宙論』が文庫化されないかなぁ〜と思っていたら、ついに出た〜。でも、改題されていて、この『宇宙創成』。アッシ的には『ビッグバン宇宙論』の方がいいと思うんだけど。原題は『Big Bang』なわけだし。
でも、そんな瑣末なことは置いておいて、今回も前2作に負けず劣らずの最高に面白い。上下2巻で761ページの大作だけど、あっという間に読みきった感じ。

さて、上巻。
地球と月と太陽の関係から始まって、いわゆる地動説と天動説の論争を克明に描き出す。その前段として、地球、月、太陽の大きさや、それぞれの間の距離を観測から割り出す人々が登場。そこでは、

たくさんの論証がみごとに噛み合い、いくつもの測定結果が合致し、それまでと異なった理論が突然持ち込まれることでその体系は強度を増す−そうして姿を現すのが、科学的な論理の美なのだ。
というこの本に通底する考え方が示されているよ。

地動説については、ガリレオが有名だけど、それ以前の人々に注目しないと、この地動説ストーリーは面白くないことも分かる。関連する人々は、コペルニクス、ティコ・ブラーエ、ケプラー、そしてガリレオ。だから、前者3人の貢献がなければ、ガリレオの地動説は成り立たなかったと言えるわけだよね。

第2章では宇宙からちょっと離れて、アインシュタイン相対性理論。でも、この理論が宇宙における重力の考え方を発展させ、ビッグバンモデルを生み出すことになるんだよね。
それを受けての第3章は、アインシュタインの理論を元に観測する人々のストーリー。宇宙は静的なのか、それとも膨張しているのか。ハッブルの観測がビッグバンモデルに多少の箔を付ける事になるんだけど、そうは問屋が卸さない…という流れの中で下巻へ。

下巻は、ビッグバン・モデルの証拠集めから始まる。
その前に、再度アインシュタインが登場して、彼はビッグバン・モデルを支持することになる。しかも、最初の相対性理論を美しくない、忌まわしいとまで言い、修正までする。

で、第4章は原子を扱う原子核物理学が登場。これは、ビッグバン直後の物質の振る舞いの説明に必要だから。一番軽い原子の水素からヘリウムが合成されるまでのプロセス…核融合が説明される。もう、こうなると科学の叡智を結集しないと、宇宙論が語れないっていう状況になってきているよね。
ここで、ヘリウムの合成まではすんなり説明がつく。でも、更に重い原子の生成を説明する理論が進展しない。結局は、星の崩壊時に生成されることが分かる。マーカス・チャウンは著書の中で、

われわれが生きるために、十億、百億、それどころか千億の星が死んでいる。われわれの血の中の鉄、骨の中のカルシウム、呼吸をするたびに肺に満ちる酸素−全ては地球が生まれるずっと以前に死んだ星たちの炉で作られたものなのだ。
と述べたという。これに対し、
ロマンチストは、自分は星くずでできているのだと考えが気に入るだろう。冷笑家は、自分は核廃棄物だと考えるほうを好むかもしれない。
と著者。アッシ的には後者かも。その方が科学的に納得できるから。

最後にビッグバンのイメージを捉えた記述を紹介。

ビッグバンは、空間の中で何かが爆発したのではなく、空間が爆発したのである。同様に、ビッグバンは時間の中で何かが爆発したのではなく、時間が爆発したのである。空間と時間はどちらも、ビッグバンの瞬間に作られたのだ。
そして、分かったような分からないようなこの説明は、ものごとは原因がなくとも起こるという量子論の「不確実性原理」にも適合しているという解説で締めくくられる。

壮大な宇宙ロマンとひとことで言ってしまえばそれまでだけど、そこへ至る経緯は紆余曲折。そして、科学の進歩はまさに人間ドラマ。そんな人間を作り出した宇宙の不思議。それを思うと神の存在は否定できないような気もするね。

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