組織デザイン/沼上幹

組織デザイン (日経文庫)』を読んだよ。組織を理論的に考える。

前回の『組織戦略の考え方』と同じ筆者。しかも、テーマも同じく「組織」。『組織戦略の考え方』は雑誌の連載記事ということもあり、内容的には柔らかめ、かつ事例も多く、実践的だったのに比較し、本書は理論的に組織を分析するという感じ。だから、ビジネス上のヒントを得ようと思ったら、両方を読んでおいた方がいいかも。

理論の開始は定義から。本書では組織デザインを、

「組織を設計する」という作業は、分業を設計し、人々の活動が時間的・空間的に調整されたものになるような工夫を施すことであり、そのようにして出来上がった分業と調整手段のパターンが組織デザインである。
と言っているよ。ただ、冒頭にいきなり定義を示されても、何のことか?と理解し難いのも確か。読了後だから、あぁそういうことだったのねと、非常に納得できる定義に思えるってわけ。そう、端的にいうと「分業と調整の組合せ」ってことなんだよね。

では、どのような分業があるのか。基本は「機能別分業」と「製品・市場別分業」の2パターン。これからさらに改良や発展があり、その事業体に最適な組織体系にしていくって感じ。どれが正解っていうものはないのだから、その組織が何を重視するかによって、組合せを変えていけばよい。

分業するからには、統合も必要なわけであって、そこにヒエラルキーとか水平統合とかの機能が必要になってくる。分業より統合の方が難しいかもしれないね。また、ヒエラルキーをきちんと機能させるために、標準化という作業が大切なのもよく分かった。垂直分業って、そういうことだったんだね。

最後は、組織デザインの万能性について。

理想の民主的な企業組織という幻想を追うのを放棄して、冷静に考えてみれば、むしろヒエラルキーを単純なものに維持しておくこと、また重要なポストに決断のできる人材を配置することの方がずっと重要だということが自ずと明らかになるはずである。その意味で、組織デザインに過剰な期待を抱かないことが、現状を冷静に判断し、現実的な組織デザインを生み出せるようになる第一条件なのかもしれない。
と。そう組織デザインは万能ではない。その他の制度と連動しながら、その効果を有効活用しないとね。

組織デザイン (日経文庫)
沼上 幹
日本経済新聞社
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組織戦略の考え方/沼上幹

組織戦略の考え方 ――企業経営の健全性のために (ちくま新書)』を読んだよ。システマチックに考えてみよ。

読みたい本リストの1冊『組織デザイン』をこの年末年始の休みに読むことを急に思い立って、図書館を探してみたけど、取り寄せる時間がなく、断念。その代りにと同著者の本書がkindle版で出ていたので、買ってみる。便利な世の中になったもんだ。

初出は雑誌「プレジデント」。だから、ビジネスパーソンが気になる話題を上手くまとめて、提供したなというイメージの本。自分的にも、「はぁ、そうだな。」、「これ、あるな。」とか、かなりの部分で納得できる話題が多かったから。

まずは、官僚制組織について。「官僚的」っていうと、世間的には批判の対象となりがちだけど、筆者はまずはこれを組織の基本とする。それは、

創造性や戦略性を強調する政策をとろうと考えている企業も、まず自社の官僚制機構という足腰のチェックをするべきである。官僚制組織という足腰が揺らげば、どれほどきらびやかな戦略も絵に描いた餅にすぎないのであり、そもそもミスへの対処に忙しくなって、戦略を考えるヒマなどなくなってしまうのである。
ということ。つまりは基本を押さえないと、創造や戦略に力を発揮する余裕が生まれないということ。御意。

そして、システマチックな仕事の仕方について。

まず仕事の多くをプログラム化し、そのプログラムで対応できない例外をヒエラルキーによってその都度上司たちが考えて処理する。これが組織設計の基本中の基本である。
そう、これも大切な考え方。まさに足腰だからね。

組織の「集合財」という考え方も面白い。そこから派生するフリーライダーの存在とか、「集合財」を生産する人たちとか。例えば、

たとえば社内における名誉の配分や面白い仕事の配分、至極当たり前の「ありがとう」という言葉、などなど、もっと多様なインセンティブを総合的に使って、積極的に集合財を創ってくれそうな中間層をいかに確保するかということを考えないと、エリートたちが集合財生産に忙しすぎて早死にしてしまうかもしれない。
とか。

最後に、トップについて。決断できないとダメをハッキリ言っているけれども、その他にも、

考えてみれば当たり前のことだが、社員の総意を反映した「落としどころ」という答えしか出せず、決断ができない経営者・管理者は不要である。
とか。そう、「落としどころ」って逃げだよな…。戦略がないってことだもの。やっぱり、戦略ありきってこと。でも、これも内部戦略と勘違いする御仁もいるわけで…。はぁ…。

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0→1の発想を生み出す「問いかけ」の力/野々村健一

0→1の発想を生み出す「問いかけ」の力』を読んだよ。『ゼロ・トゥ・ワン』

クリエイティビティやイノベーションなどの「創造性」に関する本はたくさん出ているよね。そう、それだけ皆が注目し、どうしたらイノベーションが起こせるだろうかと、日々考えている人が多いわけ。自分もその方面にはかなり興味があるわけだけど。
そして、筆者が考える思考法が「問いかけ力」であるということ。筆者は、<>「どうすれば日本で働く人に、“問いかけ”を通じて自由に発想してもらうことの楽しさや価値を伝え、行動を起こすきっかけをつくることができるだろうか?」<>
という“問いかけ”を自分に与えて本書を書いたのだとか。この問いの立て方も難しい。広すぎると抽象度が高くて発展させることができないし、狭すぎると単なる答えを探してしまう作業になってしまう。その手法は本書の後半で詳しく書かれているよ。

そして、変化の激しい時代に未来を予測することは難しくなってきている。そこで、

このような時代には「未来を予測」するのではなく、「自らの手で創る」ほうが確実です。
と筆者。だからこそ、「答えを探す力」ではなく、「問いを立てる力」が求められていると言われているんだよね。答えは調べれば、あっという間に分かる世の中になったんだし。

もう一つのキーワードは「存在意義」。筆者は、

「あるべき姿」を目指すのではなく、それよりも重要なのは「ありたい姿」だということです。
と、「存在意義」について説明しているよ。前者は皆が目指すもの、でも自分はどうなんだ?という問いがクリエイティビティやイノベーションに繋がるんだよね。あぁ、「存在意義」を語れるかな…。

最後に「デザイン思考」というキーワード。

繰り返しになりますが、デザイン思考の中心にあるのは、人です。「人にとって本当に良いことなのか」「人が本当に求めているものなのか」―このように「人」に着目する価値観が再び注目され、重要視されるようになっているのです。
と筆者。これって、『お金2.0』での論点に繋がるよ。つまりは、お金の価値よりも、人という価値が注目される世の中ということ。いろいろと問いかけていかないといけないな…。

0→1の発想を生み出す「問いかけ」の力
野々村 健一
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日本の地形/貝塚爽平

日本の地形――特質と由来 (岩波新書)』を読んだよ。複雑怪奇。

岩波新書の青版だから、昔も昔、1977年の発刊。それでも定番として、本屋の棚に並んでいることもあるから、名著なんだろうね。自分的には、ふと思い立って、本書を手に取る。もともと、地形とか地質とかには興味があって、地形図を眺めるのも好きな方。造山運動とか、プレート・テクトニクスとかも、ある程度の知識はあるつもり。でも、それらを体系的に頭のなかで整理できているかというとそうでもなく。ということで、本書で一気にそれらをまとめてみようという魂胆。

日本の地形を考えるに当たって、確認しておかなかればならないことは、やはりプレートの動き。日本の東側の海の底には海溝というプレートの沈み込みがあるのは有名だけど、世界にはその反対のプレートの生産をする海嶺があるということ。大きなものが大西洋のど真ん中にあって、それがアメリカ大陸とユーラシア大陸を分離・移動させた原因。ここまではわかるけど、そうなると太平洋は狭まっていいと思うんだけど、それが現象として確認されていない。いや、宇宙の歴史から言ったら、人間レベルの確認なんて、雀の涙以下のレベルなんだろうけど。

そこで、やっと日本の地形。まずは富士山。

プレート境界と火山フロント(または火山帯)が交叉する所は世界にここしかない。また、三つの島弧が会合する所も世界にここしか知られていない。したがって、富士山の位置は世界で唯一の特異点である、と言うことができる。
と。特異点だからこそ、あの特徴のある優美な山体を眺めることができるんだね。ありがたい。

しかも、日本の地形を形作るのは、プレートや島弧だけではない。隆起・沈降、火山、氷期間氷期の気候変化、河川による侵食と体積など。そして、近年は人工的な地形の改変が盛んに行われてきているよね。複雑怪奇と書いたけど、細かい条件設定が多過ぎるということ。でも、それが地形を読むのが楽しい理由なんだよね。車窓から地形を見るのも楽しいよなぁ~。

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ゼロ・トゥ・ワン/ピーター・ティール

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』を読んだよ。コピーじゃダメだ。

「ゼロから1」。つまりは、副題にある通り「君はゼロから何を生み出せるか」、いや「セロから生み出すことがスタートアップ企業のやるべきことだ」ということ。おっと、いきなり本論に入ってしまったけど、本書は2015年度ビジネス書大賞作品。筆者はシリコンバレーの起業家、ピーター・ティール氏。PayPal(ペイパル)の創業者だけど、日本でPayPalって、どの程度の普及率なんだろ。

話が脱線しそうなので、元に戻す。
冒頭で筆者は、

『ゼロ・トゥ・ワン』は、新しい何かを創造する企業をどう立ち上げるかについて書いた本だ。
と解説。そう、起業の本。でも、ポイントは「新しい何かを創造する」ということ。儲けるための起業ではない。「新しい何かを創造する」ということは結果的に利益が付いてくるのだとは思うけど。

そして、スタートアップする際に考えるべきことはなにか。

「賛成する人のほとんどいない、大切な真実とは何か?
を見つけることだと筆者。つまりは「隠れていた真実」を見つけること。だからこそ、
永続的な価値を創造してそれを取り込むためには、差別化のないコモディティ・ビジネスを行なってはならない。
となる。コモディティ・ビジネスって「誰もが知っていること」だからね。

その「隠れた真実」をもう少し解説すると、

フェイスブックも含めて多くのインターネット企業が過小評価されるのは、それがあまりに単純なものだからで、それ自体が隠れた真実の存在を裏づけている。
とか、
本当に社会のためになるのは、これまでと「違う」ものだ。それが新たな市場の独占を可能にし、企業に利益をもたらす。
とかになる。そう、単純だから、違うからという理由で、皆の頭から抜けてしまうんだろうね。そっか、ゼロリセットって、そういう意味もあるのか!行き詰まったら、原点に帰ろう!

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか
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お金2.0/佐藤航陽

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)』を読んだよ。お金だけではない。

Web2.0というバズワードが出てからというもの、なんとか2.0っていうのが流行った時期があったよね。それがお金にも適用されて、本書のタイトルに。ちょっと流行遅れという感じがしないでもないけど、お金にも2.0が付いたかと思うと、世の中が変わっていくんだな…というイメージは湧くから、それはそれでいいのかもしれないね。

で、本書は経済の本という位置付けだけど、「経済=お金」ではないところがミソ。

経済とは簡単に言うと「人間が関わる活動をうまく回すための仕組み」です。
と解説する筆者。そう、その仕組みの一つが貨幣経済、つまりお金。だから、仕組みはいくつも有っていい。そろそろお金という仕組みから脱却しよう、いや脱却するようになるだろうということを言っているよ。

そして、テクノロジーの時代。知識はインターネットの中にある。それを使いこなし、新しい価値を生み出すことが重要になってくる。お金のついても、

同様に、お金そのものには価値がなくなっていき、むしろどのように経済圏を作って回していくかというノウハウこそが重要な時代に変わっていくと考えています。
ということになる。それは、お金が「価値」を媒介する唯一の手段ではなくなっていくということ。
そしてスマホブロックチェーンなどのテクノロジーの普及によって、これらの社会的な価値を軸にした独自の経済圏を、グローバルで誰でも簡単に構築できるようになると、この流れは一気に加速します。
ということになり、その経済圏の構築が競争の主体になると。金融崩壊とかそういうレベルの話ではなかったんだね。今でもその萌芽があるよね。若い世代はすでに満たされた時代からスタートしているから、これからは価値を見つけていくんだろうね。その切り替えにはいろいろな場所と人で、葛藤や軋轢があるんだろうけど。でも、こういう見通しを知っておくのは重要だよね。

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佐藤 航陽
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動的平衡3/福岡伸一

動的平衡3 チャンスは準備された心にのみ降り立つ』を読んだよ。生物にとっての時間という概念。

福岡ハカセの「動的平衡」シリーズ(特段のシリーズになっているわけではないけれども。)の3冊目。今回は月刊誌ソトコトに連載したものをまとめたもの。基本的には、ハカセの提唱する動的平衡の概念を色々な事例を紹介しながら、分かりやすく説明したものという感じ。あっ、それっていつもの感じ…と同じだね。

でも、ハカセの話が面白いのは何故だろう。そのヒントになるのが時間軸という概念。

インターネットの情報にないものは何か。それは、答えに到達するまでの時間の経緯だ。そこには時間軸が決定的に欠けている。私は、きちんとプロセスをたどって答えに到達しないと、そこに至る喜びが味わえないのはもちろん、その答えを本当に理解したことにならないと思う。
ハカセ。そう、ハカセの話には時間軸があり、それが物語になるから、面白いのだと思う。そう、自分が科学史が好きなのは、この物語性のせいなのかもしれないね。

そして、この動的平衡という概念は、科学だけではなく、世の中の仕組みにも重ね合わせることができるよ。

生命の動的平衡を支えるミクロな構成要素(細胞や分子)の融通無碍な動態は、たとえば商社という組織を支える構成メンバーのあり方に重ね合わせることができ、その対比から学ぶべきことが見出せるはずだ。なぜなら商社もまたダイナミックな生命体、すなわち動的平衡に他ならないからである。
ということ。うん、確かにそうだけど、動的平衡を起点に考えればそういうことになる。でも、世の中の仕組みが時間と共に変化することを前提として動いていると考えれば…。やっぱり、時間という概念は重要だ。

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