悩む力
『悩む力』を読んだよ。姜尚中にしては読みやすく。
姜尚中の著作は何冊か読んでいるけど、そのどれもが難しい熟語が多かったりで、精神の緊張を伴うもの。ところが、本書はベストセラー。意外に思って読んでみると、これまた意外にスイスイと読み進む。そうだよね。売れる本はこのレベルでないと。
内容的には、人生論というか、思想論というか、哲学というか。ただ、随所に夏目漱石とマックス・ウェーバーの作品を事例として取り上げている点が、ユニークかも。特に夏目漱石については、作品だけでなく、その人となりについても、事例としているよ。
とは言っても、筆者自らの経験を踏まえた考察も多彩。例えば、自我について。
私は、自我というものは他者との「相互承認」の産物だと言いたいのです。そして、もっと重要なことは、承認してもらうためには、自分を他者に対して投げ出す必要があるということです。と言っているよ。さらには、他者との相互承認で自我を成立されるためにどうしたらよいかという議論。ここでキーワードとして出てくる言葉が「まじめたれ」という漱石の言葉。やっぱり、「まじめ」はいいよ。この言葉、アッシも好きだなぁ〜。
科学についての言及も。例えば医学。高度に医学が進んで、医者は患者の病気を治し、生命を維持することのみに努力を傾ける。たとえ患者が苦痛であっても。科学はその行為の究極的、本来的な意味については何も答えない…と。
科学はわれわれが何をなすべきがということについて何も教えてくれないし、教えてくれないばかりか、人間の行為がもともと持っていた大切な意味をどんどん奪っていくと考えました。われわれは電車の乗り方は知っているけれども、車両のメカニズムは何も知らない。ところが、未開の社会の人間は自分の道具について熟知しているのだ。あ〜、これは不思議な感覚…。
最後は、「死」について。子供の頃は、自分が死ぬなんて考えたことがなかった。今でもあんまり考えてはいなんだけど。「死」が恐いかというとそうでもない。でも、一般的に人びとは「死」に対しての恐怖はあるよね。さて、それに対してどうするか?筆者は「覚悟してまるごと引き受けてしまえばよい」と。
ここで強く言いたいのは、同じように「恐くない」でも、子供のように「知らないから恐くない」ではなく、知ったうえでの、少なくとも死について考えをめぐらし、心構えのようなものを持ったうえでの「恐くない」であるべきだということです。と、漸くここで「悩む」が登場。
そのためには、自分の人生について悩みぬくことが必要だと思います。それを避けていたら、たぶんいつまでたっても恐いでしょう。
そう、悩みなんて無くなるわけがないんだから、それをまるごと引き受けて、開き直るのが一番の力なんじゃないかなぁ〜って感じかな。
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