「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯/城山三郎

「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯 (文春文庫)』を読んだよ。実業家という言葉がピッタリ。

三井物産代表取締役社長を経て、国鉄総裁を歴任した石田禮助氏の半生記。1886年明治19年)に伊豆の松崎町に生まれ、一橋大学を卒業後、三井物産に入社。三井物産では主に海外の支店での勤務を長く努め、その後に取締役から代表取締役社長に就任する。この海外での経験は大きかったようだよね。石田氏の言葉には、英単語が多いのはこのため。マンキーとか、エンジョイとか、ルー大柴の走りか?って感じもするけど…。

国鉄総裁就任後、初めての国会での運輸委員会に出席したときのこと。いきなり、議員たちの向かって「諸君」と呼びかける。周りが慌てるのも無理はないこと。さらには、

「生来、粗にして野だが卑ではないつもり。ていねいな言葉を使おうと思っても、生まれつきでできない。無理に使うと、マンキーが裃を着たような、おかしなことになる。無礼なことがあれば、よろしくお許しねがいたい」
と挨拶。無礼と思われても致し方ない感じだけど、これが石田氏の素直な表現。そして、本書のタイトルにある「粗にして野だが卑ではない」が登場する。そう、嘘はつきませんと言っているんだよね。
同委員会での別の発言について、筆者の解説は、
「諸君にも責任がある」との国会での発言は、同志として本当のことを言ったまで。一緒になって改めるべきは改めようと、訴えたつもりであった。
ということ。うん、ストレートな表現。忖度なんて存在しないよね。

国鉄総裁を引き受けた理由として、海外での経験もあったような。

政府にたのまれたり、社会事業に手を貸したり。公職として給与が出ても、形式的に一ドル受けとるだけ。「ワンダラー・マン」と呼ばれるそういう男たちが居ることが、石田には強い印象になって残った。
そう、石田氏としては国鉄総裁の仕事は「パブリック・サービス」として捉えていたんだろうね。
石田氏のような筋道の鮮やかな生き方、いいよね。
「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯 (文春文庫)
「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯 (文春文庫)城山 三郎

文藝春秋 1992-06-10
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