強力伝・孤島/新田次郎

強力伝・孤島 (新潮文庫)』を読んだよ。新田次郎の原点。

新田次郎の初期の短編集で全六話。そのうちの「強力伝」は直木賞受賞作って、新田次郎って直木賞作家だったんだね。
さて、その六つの短編。どれも個性に飛んでいて、派手さはないけれども、実直に引き込まれていく感じ。それぞれの物語の舞台は富士山頂や厳冬期の雪山、太平洋ど真ん中の孤島、落とし穴の中、オオカミに襲われる山の村とそれぞれ。ただ、テーマは局地と言ったらいいのかな。非日常というか。そんな状態の人間の行動って、時として常識を超える動きをするからね。

自分的に気になったのは、「八甲田山」、「凍傷」、「孤島」の三作品。なぜなら、新田次郎はその後に同じテーマで長編を書いているから。「八甲田山」は『八甲田山死の彷徨』、「凍傷」は『芙蓉の人』、「孤島」は『火の島』に連なる作品だよね。

その三作品の中から、さらに気になることを紹介。
まずは、「凍傷」から。主人公が慰問隊(本当の目的は救助か?)の人物に向かって、

「くどいようだが、二人は至極元気だったと言ってくれ。途中で遭難しかけたとか、食料が欠乏しているなんてことは一切話してはいけない。<後略>」
と念を押す。何のために?って思うけど、それは富士山頂に永年観測所を設立する為に、順調をアピールすること。そう、これって『芙蓉の人』の主人公と同じ行動だよね。局地というより信念と言うべきか。

そして、「孤島」では、測候所長が、

「それもいいが、結局はこの場所に人が近寄らないことが一番いいのじゃないかな。ほんとはこの島には人が居ない方が鳥のためかも知れない。この島に人が居る限り、やがてアホウ鳥は亡びるような気がしてならないんだ。」
と言う。そう、そもそも、人が住むような場所ではないところに、人が住むことが間違っているってこと。『火の島』での、最後は観測所を閉鎖することに繋がっていくよね。

八甲田山死の彷徨』は未読だけど、その原点を知ることで、読む楽しみが増えた感じかなぁ〜。

強力伝・孤島 (新潮文庫)
強力伝・孤島 (新潮文庫)新田 次郎

新潮社 1965-07-30
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