新編 単独行/加藤文太郎

新編 単独行 (ヤマケイ文庫)』を読んだよ。竹内洋岳氏との違い。

昔々に、新田次郎の『孤高の人』を読んだことがあったけど、その原点というべきものが本書になるのかな。『孤高の人』も新田氏の詳細な取材のものと書かれているんだけど、何と言っても本人が書いたものが最初の資料になるわけだし。
ということで、本書は『孤高の人』の主人公である加藤文太郎氏が書いたエッセイというか記録というか諸々の文章をまとめたもの。文中には山岳文学という表現まで登場するけれども、実際はそこまで言うのは、言い過ぎのような…。

では、どんな記録なのか。
主に、日本アルプスの山々を冬期に単独縦走したもの。その他に、加藤氏の地元の但馬地方の山々を巡った時のもの。こちらもほとんどが冬期だけど。
そして、加藤氏の凄いところは、その行動の速さ。しかも、長時間の活動。
例えば、昭和5年の年末から翌年の正月にかけての山行では、

加藤は風雪に悩まされながら野口五郎岳を越えるところまで前進し、雪洞を掘って二時間ほど休み、吹雪をやり過ごした。雪洞を出ると、強風ながら月夜で視界がよくきいた。烏帽子の小屋に着いたのは午前二時。十九時間の行動だった。
と、まさにトランスジャパンアルプスレース並みの速さと行動時間だよね。

では、加藤氏の素顔は…というと、一介の設計技師。だからというわけではないだろうけど、何と無く生真面目風が文章のあちこちに漂ってくるよ。
頂上には特に変わったものがないと分かっていても素通りできないと書いてあったり、ほとんどの山頂で必ず万歳三唱していたり。

最後に加藤氏が考える山に来る目的。

自分は「山と闘うために来た」のではないか。
とハッキリ言っているよ。そこが冒頭の竹内洋岳氏との違い。ただ、このセリフも吹雪で動けなくなった時だから、自分を鼓舞するものだったのかもしれないね。

凄い人には違いないけど、その人間性は極々普通の人。不安だったり、自信を持ったり、挫けそうになったり。そんな加藤氏が分かっただけでも、本書を読んでよかったと思うのでした〜。

新編 単独行 (ヤマケイ文庫)
新編 単独行 (ヤマケイ文庫)加藤 文太郎

山と溪谷社 2010-11-01
売り上げランキング : 3308


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

応援クリックはこちら→にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ