土地の神話/猪瀬直樹

土地の神話 (新潮文庫)』を読んだよ。東京は五島慶太が作ったのか…?

著者の猪瀬直樹氏があとがきで、『ミカドの肖像』の続編であると言っている本書。その『ミカドの肖像』をアッシが読んだのは、遥か昔。薄っすらとした記憶を辿れば、プリンスホテルを巡る西武の堤康次郎の話だったような。ということで、その続編ということであれば、登場するのは堤のライバルである五島慶太。田園調布を中心とした“田園都市”の開発と鉄道事業の変遷をこの五島慶太を中心に描いているよ。

登場人物は多数。それでも、重要人物は何人かいるわけで、冒頭に登場するのは、渋沢栄一の四男・渋沢秀雄。彼がイギリスのレッチワースでガーデンシティという理想郷を視察することから話が始まり、それを実現すべく会社設立などの具体的な動きがある中で、五島慶太が登場し、あっという間に乗っ取られる。その手際の良さというか、強引さはやっぱり凄い。仕事ってこういうものなのかとも、考えてしまうくらい。

そして、土地の開発については、関東大震災という事件も無関係ではなく、震災後の東京東部からの移住・移転も五島の戦略を後押ししているよ。特に、東京工業大学の移転の件は、如何にもという感じ。筆者は震災後の東京について、

関東大震災というビッグバンによって東京という宇宙が急膨張をはじめたのだ。どこに向かっていくのかわからない不定型のエネルギーが無秩序に発散されようとしていた。

と表現しているよ。そして、その急膨張の要因の一つが復興局と復興予算の組合せ。ドサクサに紛れた血税の浪費は絶対に避けたいものだよね。

そして、冒頭に登場した渋沢秀雄が描いた田園都市が具現化された田園調布はどうなったのか?地元住民で組織する田園調布会は国会に請願書を提出する。請願書は『異常地価高騰に伴い固定資産税に暫定措置を求める請願書』と『異常地価対策として首都圏に新たに良好な住宅地を設ける請願書』の二つ。特に後者は「首都圏の一定範囲内をすべて宅地と緑地にして道路網を整備し、先進国なみの快適で良好な住宅をつくる方針を早急に決定」するように求めている。これって、そもそも田園調布の理想郷だったんじゃない?だから、筆者は、

この田園調布会の二つの請願こそ、僕がこれまでひもといてきた田園調布の歴史の帰結だとしたら、なんという皮肉であろうか。
なぜなら「先進国なみの快適で良好な住宅をつくる」ために生まれた田園調布が、新しい理想郷を求めずにはいられなくなったのだから。

と言う。うん、ホントに皮肉としか言いようがないよね。

ノンフィクション作家として、東京の成り立ちを詳しく調査した筆者。その帰結が東京都知事だとしたら、これもまた一つの皮肉な結果のような気もするね。いや、当然の帰結だと考えた方が我々都民にとって、期待感があるんだけどね。あっ、『ミカドの肖像』も読み直してみようかなぁ〜。

土地の神話 (新潮文庫)
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