強い者は生き残れない―環境から考える新しい進化論―/吉村仁

『強い者は生き残れない―環境から考える新しい進化論―』を読んだよ。進化論の新しい形。

『素数ゼミの謎』の吉村先生。もともと、この『素数ゼミの謎』NHKの「爆笑問題のニッポンの教養」で吉村先生が登場した時に知ったもの。その時の先生はヨレヨレの白衣とサンダル風でこのユニークな理論は想像できなかったけど、本書の顔写真はシャキッとしていて、いい感じ。

さて、中身の話。突端はやっぱりダーウィンの進化論。進化論はここから始まっていろいろな理論がその上に構築されていく。
たとえば、働きバチ。自分の子孫を残すことはせずに、姉妹を助けるという利他的行動は遺伝子レベルの話で説明する。うん、この考え方は面白い。

ところが、これまでの進化論は、環境の変化がないことを前提に研究されてきた。でも、実際の地球環境は、生物が誕生して約40億年もの間、まったく一定だったかというと、そんなことはもちろん有り得ない。だから、こそ環境の変化が進化を変えたと言っても過言ではないよね。
そこで吉村先生曰く、

突然変異と自然選択の関係において注意すべきは、自然選択の作用は環境が変化したときに変わることだ。裏を返せば、環境が変わらなければ安定化選択が働いているだけで、方向性の自然選択はほとんど起こらず、最適化は完了している。<中略>つまり、生物の進化は環境の変化によって引き起こされるといえる。
となり、魚は自らの意思で陸に上がったわけではなく、水が干上がるという環境の変化にともなって、否応なく適応した結果であると解説しているよ。そう、自律的意思がある魚がいれば、今からでも陸に上がる魚がいるはずだしね。

さらに、生物が生き残るための戦略の数々。リスク回避では、モンシロチョウがキャベツ以外の代替食草に卵を産むとか、人間だって男性の死亡率が高ければ多妻になるとか。
山に登れば分かるけど、山頂っていうのはやたらに虫が多い。アッシは単に、登山者の食べ残しを狙って集まっているだけなのかと思っていたら、そうでもない。異性との出会いを求めて山に登ってくるのだと。なるほど、彼らの子孫を残すための戦略だったのか。

そして、環境の変化に順応することができることが生き残る条件となれば、それは「強い者」が生き残るわけではなく、

すべての環境で「そこそこ」のものが最後に生き残るのである。
という結論。

さて、それはどういう意味を持つのか。筆者は「環境からの独立」であるという。そう、人間は凄い、ある程度の環境にも耐え得る工夫をし、さらには自ら環境を変えることで生き延びる。

すなわち、人間のすべての活動は、何らかの点で、環境からの独立、安定といった意味がある。そして、環境不確定性からの脱却という観点からは、人類が生物の頂点にいる。つまり、人類は、環境からの独立という点で、「特別な存在」であると言えるのだ。
ということは、人間は生物学的にはこれ以上進化しないということか?という疑問が…。

最後は共生とか協同とかいう話になって、社会論を展開。進化の考え方は原理を抑えておけば、いろいろな応用が可能なんだね。
進化論、面白い。改めて、進化論を発見したダーウィンという人物は凄いなぁ〜と思うのではありました。

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