疾走する精神―「今、ここ」から始まる思想/茂木健一郎

『疾走する精神―「今、ここ」から始まる思想』を読んだよ。科学と哲学は紙一重

中央公論』に「新・森の生活」と題して書かれたものをまとめたもの。茂木さんの本といえば、このところ軽めのものが多かったけど、今回はずっしりと骨があるものだったよ。
さて、「森の生活」といえば、ソローの『ウォールデン−森の生活』。アッシの子供の頃からのあこがれの本。未だに読んだことがないんだけど。茂木さん自身、青年期に読んで強く惹きつけられたとか。森の豊饒さや多様性を、ここでは現代の社会に当てはめて、いかに取り戻していくかを考えていこうというわけ。

多様性に近い考えとして、まずは「無限」という考え方。
無限の概念には、可能無限と実無限があって、私たちは実無限を取り扱うことはできない。で、私たちが取り扱うことが出来る可能無限は「次がある」ということに関係しているという。ここで、こういう話ができる茂木さんって、やっぱり文理融合の人なんだなぁ〜と感心するよ。さらに、

本来有限であるはずの人生を安心立命の中に生きられるのは、「次がある」という可能無限の認識ゆえである。<中略>可能無限の中に浸る。それは、一つの甘い忘却であるかもしれないが、その忘却ゆえに無限の幻想を抱くからこそ、人間はゆったりと精神活動を営むことが出来るのである。
とも。人間って、便利にできているなぁ〜。

感情とは何かという問いの答えも多様性で解説する。感情は生きる上で避けることのできない不確実性に対応する適応戦略であるという。だからこそ、感情とは個人差が生じることは自然なこと。「正解」は一つとは限らないから。つまりは、

さまざまな人々が異なる戦略をとり、全体としてバラエティが増したほうが、人間という生物種全体としては、むしろ適応的である。
ということになり、感情の多様性とは人類の永続に貢献するわけ。
そして、多様性による他者との違いを容認せずにいることは、生命力の致命的減衰であるとも言っているよ。

多様性があるがこその発展。メタ的な視点がふと我に帰る。精神の緊張を伴う読書はこういう快感があるから、やめられないなぁ〜。

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