欲望する脳
『欲望する脳』を読んだよ。茂木さんの本は久しぶり。
茂木さん、このところ新刊を乱発しすぎで、もう追いついていけない感じ。だから、今後は面白そうなものをチョイスして行こうと思う。勿論、茂木さんの場合、精神の緊張を伴う読書がよい。本書も多少精神の緊張を伴うよ。
元々、集英社のPR誌「青春と読書」に連載されていたものなので、24章に分かれていて、各章が比較的短いので、本を手にしようとするハードルは低いんだけど…。
本書の底流にあるもの。それは孔子が論語で述べた「自分の心の欲するところに従っても心理的規範から逸脱しない(七十而従心所欲、不踰矩)」という境地。でも、茂木さん自身はそのような境地に達する人間はほとんどいないだろうと考える。そう、人間が欲望することで生きているからなのではないかなぁ〜とアッシ的に想像するよ。
進化論も欲望と言う観点から捉える。現代は人間の「野獣化」の流れであるという。
自分の欲望を無条件に肯定し、それを他人に対して表出することをためらわない傾向を指す。<中略>余計な社会的配慮をすることなく自らの欲動をストレートに表現することを是とする傾向が現れてきているのである。進化論は「結果として遺伝子が残るならば、途中の生の履歴は何でも良い」という考え方。これは、まさに「野獣化」の論理とつながっているよね。資本主義の考え方もまた同じ。人々の欲するように動けば、資本が循環していくという考え方。これもやっぱり「野獣化」だ。
だからといって、進化論や資本主義が間違っているわけではないよね。これが人間の欲望とは何ぞやという不思議さなわけだよね。
人間の知性の本質についても、語る。キーワードは「終末開放性」。人間の知性は「半ば遺伝で、半ば環境で」決まると思われるのが一般的。では、それはどうしてか?
人間の脳の回路が、遺伝子によって決まっていたとしても、その「完成形」は原理的に存在しないという考え方。仮にその「完成形」が存在したとしても、その最終的帰結を見ないまでに死んでしまうのだと。
「人間の知性は、いつまで経っても完成形を迎えることのない『終末開放性』をその特徴としています。だから、たとえ、遺伝子によってかなりの部分が決まっていたとしても、実際的な意味では決まっていないのと同じなのです。」そう、誰もが前向きに生きていいのだ。
資本主義と社会主義の体制間の比較優位の問題は、結局決して避けることのできない生きる上での「偶有性」に対する適応へのロバストネス(強靭性)によって決した。社会主義の理想は「こうすればこうなるはずだ」という偶有性を排したもの。そう、これは、養老先生のよく言う脳がすべてであるという発想。資本主義は偶有性を引き受けたものなのだ。こう言われるとすごくよく分かるような気がするよね。
精神の緊張を伴う読書は、脳が欲するアッシの行動。脳の欲望は底知れず恐ろしいものだね。
欲望する脳 (集英社新書 418G) | |
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