ハーメルンの笛吹き男

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』を読んだよ。阿部謹也先生の不朽の名作。

子供の頃、絵本などで誰もが読んだことのあるという「ハーメルンの笛吹き男」の話。とは、言ってもアッシにはその記憶がない。ただ、なんとなく知っていたということは、どこかで見聞きしたことがあるんだろうね。それだけ知られている「ハーメルンの笛吹き男」の話について、史料を通してその真実を探ろうとするのが本書。

ハーメルンの笛吹き男」の伝説の内容については、他のメディアに譲るとして、まずは1284年6月26日のハーメルンの町の様子と、その当時の社会的、時代的な背景を巡る。
13世紀だから、都市という機構が成立する時代ではあったけど、いわゆる普通の人々の生活は自由とはかけ離れたものであり、一定の支配者層の下に生活する人々であったわけだ。

そんな社会的背景の中で、この「ハーメルンの笛吹き男」の伝説を史実としてどう捉えるか。阿部先生は東ドイツ植民という観点から捉えた二つの説を紹介する。先に述べたように、一定の支配から解放されるために新天地を求めての大移動が有った訳だ。その一つの動きとして、130人の子供たち(若者だったという説)がハーメルンを出て行ったのだと。
ただ、阿部先生は、この東ドイツ植民のような出来事がこの伝説の背景であったとはどうしても考えられないという。

そして、話は再びハーメルンの人々の生活の様子に戻る。
中世社会は完全なる身分社会であった。乞食として生まれたものは一生乞食なわけだ。ところが乞食といっても、当時はそれは一つの専門職だったという。そして、乞食より蔑視されていた賤民層の生活。賤民については、阿部先生は他の本に詳しく書かれているので、そちらを読むとよいよ。
さて、子供たちの生活はどうだったのだろうか。これも子供たちなりに厳しい生活を強いられていたような。現代の子供たちは大人から子供の領分というものを与えられているが当時の子供たちは、それを自ら奪い取っていかなくてはならなかったとか。

子供たちは家庭でも学校でも道路上の遊びにおいても、大人が構成する社会の全体のなかに、何の斟酌もなく投げ込まれていたのである。
そこで、賤民と子供たちはどう繋がっていくのか。
かつて秋田の子供たちが「親のいうことを聞かないとなまはげが来るぞ」といって親の脅かされたように、また泣き叫ぶ子供たちが「人さらいが来るぞ」といって脅かされたように<笛吹き男>に象徴される遍歴芸人は子供と親にとってなまはげや、人さらいと似通った存在であった。
と、説明されているよ。

ところが、阿部先生の解釈は、<笛吹き男>に象徴される遍歴芸人の存在はこの伝説には薄いという。キーワードは「祭」だ。遍歴芸人の身分の低さが、事件の当事者に仕立て上げられたものであるのでは…と。

ひとつの伝説が語り継がれていく過程は、その当時の社会情勢を如実に反映しているよ。阿部先生はその点を上からの視点ではなく、人々の視点から分析する。アッシ的にはそういう視点が好きなんだなぁ〜。

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)
ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)阿部 謹也

筑摩書房 1988-12
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