「名探偵」に名前はいらない/関川夏央
『「名探偵」に名前はいらない (講談社文庫)』を読んだよ。名探偵なのにデブ?
関川夏央の書き物は小説なのかエッセイなのか、微妙な感じのものが多いような気がするんだけど、本書は冒頭からはっきり小説だと分かるもの。そして、探偵が主人公なのは分かっていたけど、いきなりハードボイルド風。関川夏央の印象だと、どちらかと言うとコロンボとか金田一耕助をイメージしていたんだけど、そうではなく。あっ、中途半端にハードボイルド風かも。
その探偵さんが扱う事件が4件。ハードボイルドだから、酒、女、暴力という三点セットは一応揃っているんだけど、やっぱり主役がそれっぽくない。なんせ、
「ええ探偵です。おまけに運の悪いことに名探偵です」と言ったりするわけだから。ハードボイルド風の名探偵が「名探偵」を主張するわけがなく、それを自ら口にするということは、ギャグなのか自虐的なのか…。
さらに筆者の趣味が出ているセリフをこの名探偵が吐く。
おれは予算の引締めにも興味があったが、鉄道の旅にも興味があった。空気に浮くものよりも、地面を這うものの方が信頼に足ると考える連中が世界にはかなり生残っており、おれもそのなかのひとりだ。旅とは、眼の高さにある風景を眺めながら水平に移動するものである、と信じながら三十五年を過ごすと、小学校で習った歯ブラシのつかい方とおなじく、たやすくはかえにくい。そう、テツなのだ。趣味的には筆者の分身か?と思えなくもない。そっか、ハードボイルドは筆者の願望だったのかも。それでも、自身を鑑みて、自分が探偵になった姿を想像してみたのかもしれないな。
さらに、自分的に共感したセリフも。
スペインが満員の後楽園球場ならば、ポルトガルは、たとえば秋も深まった川崎球場だ。ロッテと南海がただ日程を消化するためにだけ戦っている場所だ。そしてリスボンはその外野席だ。疲れた恋人たちがわずかの距離をおいてすわるベンチだ。いや、これが分かるのは同年代。そして、プロ野球ニュースを見ていたクチかもしれないわ。あぁ、自分もハードボイルド風名探偵に憧れるオヤジの仲間かもしれないなぁ~。
「名探偵」に名前はいらない (講談社文庫)
posted with amazlet at 19.10.20