アンダーグラウンド/村上春樹
『アンダーグラウンド (講談社文庫)』を読んだよ。日常の中の暴力。
作家の村上春樹っていうとほとんど小説の人というイメージだと思うけど、本書は数少ないノンフィクション作品の一つ。そして、その題材は、地下鉄サリン事件。村上春樹とこの事件が自分的にはどうしても結びつかないんだけど、どうしてこれを書こうとしたかは、本書の中で、
もっと具体的に述べるなら、「そのときに地下鉄の列車の中に居合わせた人々は、そこで何を見て、どのような行動をとり、何を感じ、考えたのか?」、そういうことだ。私はそのことが知りたかった。と筆者本人が述べている。それでも、自分としてはよく分からなかったんだけど。作家魂に火が点いたってことなのか…。
内容的には、事件の被害者(遺族を含む)に筆者独自にインタビューし、それをまとめたもの。インタビューを受けた人たち(インタビューイ)は総勢62名というから、相当のボリュームだよね。だから、文庫にすると700頁以上。勿論、軽症の人もいるし、残念ながら未だに後遺症に悩まされる人も。
取材の時期が事件後1年以上は経過しているので、インタビューイの語る言葉は淡々としているという印象。そして、誰もが状況が把握てきておらず、自分が被害にあっているという感覚を持っていない。だから、多少身体の具合が悪くても、会社に行こうとする人たちが多数。
もう一つは現場の状況で印象的だったこと。
私がいた小伝馬町の駅前、その一角はたしかに異常事態なんです。でもそのまわりの世界はいつもどおりの普通の生活を続けているんです。道路には普通に車が走っているんです。あれは今思い返しても不思議なものでしたよね。そのコントラストが、ものすごく不思議だった。という証言。異常事態(非日常)のすぐ隣に日常が流れているってこと。東京都心という場所だからこそのコントラストなんだろうね。ちょっと怖い気もするけど、前述の「それでも会社に行こうとした。」ということが普通に起こり得るんだよね。
最後に筆者の言葉。
私たちはこの巨大な事件を通過して、いったいどこに向かって行こうとしているのだろうか? それを知らない限り、この地下鉄サリン事件という「目じるしのない悪夢」から、私たちは本当には逃れることができないのではないだろうか。この事件から自分は何を考えたのか。それすらも曖昧な状況のような…。あまりにも巨大な事件の為、整理しきれないというのが正直なところかな。
アンダーグラウンド (講談社文庫) | |
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