鉄道と国家/小牟田哲彦
『鉄道と国家─「我田引鉄」の近現代史 (講談社現代新書)』を読んだよ。両者は密接に関連している。
副題は“「我田引鉄」の近現代史”。アッシ的には、この「我田引鉄」に引かれて本書を手にとったんだけど、それは単なるエピソードに留まらず、日本の国家戦略まで話が膨らんでくる。
何で国家戦略?と思うかもしれないけど、元々、鉄道の敷設というものは、国家戦略だったんだよね。近代日本を世界に示す必要性から、鉄道の敷設が始まったわけだし。
ということで、本書の前半は、明治期から戦争の集結までの時代において、日本の鉄道がどのような政治背景の中で敷設されていったかをまとめたもの。特に、狭軌か広軌の議論の紆余曲折は興味深いよ。それに加えて、建設を優先するか、広軌への改修を優先するかという国家戦略が絡んでくる。その国家戦略とは外国に向けてのパフォーマンスなんだけど…。
さて、実際の「我田引鉄」の事例。
大船渡線と中央東線は有名どころ。国家のための鉄道だから、法律まで作って鉄道の敷設を進めたんだけど、それが地元の政治家的にはうまく利用するしかないと…。大船渡線の方は、どうみても「我田引鉄」っぽいけれども、中央東線は当時の建設事情もあったみたい。トンネルを通す費用と技術の問題として。
もうひとつは、駅の設置問題。
事例としては、東海道新幹線の岐阜羽島駅と南びわ湖駅。前者は新幹線開業時の問題だから、自治体と政治家と国の問題として、うまく解決した事例。後者は国鉄がJR(私企業)に変わっているから、話が難しくなっているような…。実際、設置されなかったし。
このように現代の鉄道事業は、その規模が大きくなればなるほど、私企業性と公共性とが絶妙に絡み合う複合性を持っている。特定の政治家が自身の政治力を背景に新線や新駅を地元に呼び込むよりも、その複合性を考慮した方がよっぽど難しいのではないかと思う。とまとめているよ。
さらには、地方線の廃止問題、この震災からの鉄道の復旧問題、新幹線の海外への輸出など、政治に絡む話はたくさん。それを考えると、新幹線建設に関わった佐藤栄作や田中角栄って国家的ビジョンを持った政治家だったんだなぁ〜と思うよ。あっ、二人とも名前に“栄”の字があるのは偶然か?
鉄道と国家─「我田引鉄」の近現代史 (講談社現代新書) | |
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