物理屋になりたかったんだよ/小柴昌俊
『物理屋になりたかったんだよ―ノーベル物理学賞への軌跡 (朝日選書)』を読んだよ。小柴先生の印象が変わって。
2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊先生へのロングインタビューを編集者がまとめたもの。小柴先生といえば、今年の6月にある研究会の講演でお話を伺ったことがあり、メディアから受けていた今までの印象とは違う親しみやすい方だということが分かり、チャンスがあれば先生の著作を読みたいと思っていたわけ。その講演の冒頭でも、著作物の紹介があり、その際に「印税は全て平成科学基礎財団に寄付されます。」という話にも好印象だったし。
アッシが聞いた講演の内容は本書の内容と重複するところがあるんだけど、その中でも印象的だった言葉は、「血税を使う」ということ。カミオカンデには3.5億円もの税金が投入されているわけで、普通の人ならばそれを意識せざるを得ないよね。小柴先生もそのことは十分に配慮されていたみたい。
カミオカンデの本来の目的は陽子崩壊を観測することだったけど、堅実的な目標として超新星爆発のニュートリノを捕捉することというテーマを設定し、ずばりその堅実路線で成果を出したというわけ。
わたしたちは、頭を使って、血税の使い方を考えなければならないだろう。と言い、「当たれば一発」的な目標だけのための装置をつくってはいけないと、くりかえし話したり書いたりしているのだとも。
中盤は、生い立ちから今までの研究生活について。
小柴先生は理論物理というより実験物理。理論物理に早めに見切りをつけてよかったということや実験の楽しさについても語っているよ。
そもそも実験は、わからないことがあるからやるのだ。答えがわかっていることを、確かめるために実験する必要はない。自然に対して「わからないこと」をどういうかたちで問いかけたらよいのか、とことん考え詰めると、適切な方法にたどりつける確率がよくなる。これは、わたしの実感だ。ということ。絶妙のタイミング(東大の定年退官の1か月前)で超新星にめぐりあったことに関しても、それがヤマ勘だと言われても、ヤマ勘だって磨けば当りがよくなるものだと前向きに考えているよ。
ノーベル物理学賞を受賞した当時のアッシの先生の印象はそれほど良くはなかった。それは、やっぱり巨大装置を使った実験に疑問があったから。それでも、今回講演を聞いたり、本を読んでみたりしたことで、印象が変わったよ。そう、やっぱり「世界一」じゃなくちゃダメなんだ。二番目なんてビリと同じ。でも、血税を使っているという意識は忘れないで欲しいよね。
物理屋になりたかったんだよ―ノーベル物理学賞への軌跡 (朝日選書) | |
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