奇跡のリンゴ/石川拓治,NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班

奇跡のリンゴ』を読んだよ。『沈黙の春』の農薬問題と重ね合わせて。

内容的には『リンゴが教えてくれたこと』と重複。この『リンゴが教えてくれたこと』木村秋則氏本人が書いたものだけど、本書はNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」の取材をベースに、ノンフィクションライターが書いたもの。
勿論、ところどころのエピソードには多少の違いはあるし、プロのライターが書いたものだけに、話の盛り上げ方が違うかも。

前半は木村氏の半生から無農薬無肥料のリンゴ栽培に挑戦するまで。きっかけとして、農薬の問題が一番大きいのだけれども、それに関連して本書の中で何度も出てくるのが「根絶やし」という言葉。ヨーロッパの葡萄果樹園の景色は美しい。でも、それは他の植物を排除することによる人工的な美しさなわけ。

それは、本来ならそこに存在していたはずの在来の植物や昆虫や動物を根絶やしにした景色でもある。
それは果樹園だけではなく、米を作る田圃もそう。農業とはそういうものなんだよね。

木村氏が酔って気分がよい時にするという不思議な話。UFOに遭遇したという話をするという。これを筆者は、UFOと無農薬のリンゴが木村氏にとって不可能の象徴なのだと分析する。

イオニアは孤独だ。
<中略>
それは既成概念を打ち壊すということだから。過去から積み上げてきた世界観や価値観を愛する人々からすれば、パイオニアとは秩序の破壊者の別名でしかない。
<中略>
人は変化を恐れる生き物なのだ。
<中略>
木村もまた同じ種類の、人が本能的に持つ恐怖心を相手にしていたわけだ。
<中略>
彼が受けていた有形無形の圧力がすさまじいものだったことは想像に難くない。
こういう分析はライターならではのもの。本人がそう語ったわけではないのだろうけれども、うんうんと頷かせる記述だよね。

最後に木村氏のいう「百姓」に対する考え方を紹介。

「だけど、それじゃ百姓は出来ないんだ。百姓は百の仕事という意味なんだよ。百の仕事に通じていなければ、百姓は務まらないのさ」と。
そう、これこそ阿部謹也先生のいう教養のある人なんじゃないか〜。学者顔負けの研究実績を積み重ねているんだよね。筆者は、学者との違いを方法論の違いなのだと言うけど。

単なる一農家の感動のドキュメンタリーでは終わらず、ちょっと哲学チックな味わいがあり、科学が自然哲学から起こったことが納得できる一冊でした〜。

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録
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