生命科学の冒険

生命科学の冒険』を読んだよ。脳科学にも倫理問題があったんだね。

「おわりに」に書かれているけれども、本書の仮のタイトルは「はじめての生命倫理」だったとか。「はじめての」はともかく、本書の内容はまさに「生命倫理」。科学的には、生殖、クローン、遺伝子、脳と分かれてはいるけれども、それぞれに共通する倫理問題をテーマにしているよ。
確かにこれらの分野では、人間とは何か?という哲学的な問題を孕みながらも、技術の進歩は早いので、倫理問題が追いついていないというイメージがある。でも、その倫理問題とは具体的に何か?と問われても、そのイメージは湧かないよね。その辺りを整理して書かれているので分かりやすいよ。

取っ掛かりとして分かりやすいのは、生殖。体外受精などの生殖補助医療のこと。重要なことは「子供の立場に立って考える」ということだと筆者は言っているよ。

そして、クローン。有名なのはクローン羊のドリー。何がすごいかというと、いったん役割が決まった細胞から、全体を作るのに必要なあらゆる細胞ができたこと。受精卵は「全能性」と云ったどんな細胞にもなりうる機能を持っているけれども、細胞の「分化」により徐々に役割が決まっていき、それは不可逆なのに…。

ある動物の身体の一部から、挿し木のような無性生殖で、その動物とまったく同じ遺伝情報を持った動物を作り出す。これが、クローン羊の驚きだったわけです。
この「挿し木のような」という表現に、何かこの技術の怖さを感じるんだけど…。

遺伝子の章では、個人情報の考え方が登場するよ。そう、個人の遺伝子情報はまさに守られるべき個人情報なんだよね。

「私の遺伝子の情報」は、他の人とは違う、私に属している私だけの情報です。しかも、病気や体質などの情報が含まれているのですから「私の名前や生年月日、住所」と比べても、よりセンシティブな個人情報です。誰でも知ることができる情報とは思えません。
と筆者は言っているよ。

脳科学でも、この個人情報の問題が登場するよ。脳の画像を解析して、どんなことを考えているのかを判断する技術。それは、脳の中は個人情報なのに、それにアクセスしてしまう技術。不思議な感覚だけど、そこまで科学は進歩している。

最後は「自由意志」の問題。ここまでの話では、遺伝子の特徴や脳の特徴が人間を決定しているというように思えるかもしれないよね。まさに人間としての「自由意志」など、どこにも無いかのよう。ここまで来ると、やっぱりこれは哲学の問題。

人間てなんて奥深いんだろうと思える一冊でした〜。

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