「明治」という国家

『「明治」という国家』を読んだよ。やっぱり、流れが分かると歴史は面白い。

『この国のかたち〈1(1986~1987)〉』司馬遼太郎に興味を持ち、2冊目。上下に分かれているから、正確にいうと、2冊目と3冊目。
いきなり、タイトルの話だけど、本書のポイントは、このタイトル。明治という「時代」ではなく「国家」であるということ。逆にいうと、江戸は時代であって、国家ではないということなんだろうね。となると、大正、昭和も国家ではない?なんていう疑問が湧くけど。

中身的には全11章だけど、それぞれ独立しているような気もする。同じ内容が違う章で話されていたりするから。例えば、勝海舟アメリカから帰って、老中に呼ばれ、「アメリカと日本は、どういうところが違うか」というのどかな質問に対し、「アメリカは日本と違って、賢い人が上にいます」と答えたという話。アッシ的にはかなり壷に来たんだなぁ。

江戸時代の多様性についての見解も壷に来る話。薩長土肥の四藩だけだけど、それぞれに特徴がある。
ちょっと長いけど、引用。

薩摩の藩風は、物事の本質をおさえておおづかみに事をおこなう政治家や総指令官タイプを多く出しました。
長州は、権力の操作が上手なのです。ですから官僚機構をつくり、動かしました。
土佐は、官にながくはおらず、野にくだって自由民権運動をひろげました。
佐賀は、そのなかにあって、着実に物事をやっていく人材を新政府に提供します。
この多様さは、明治初期国家が、江戸日本からひきついだ最大の財産だったといえるでしょう。
この多様さを捉えておけば、明治に活躍する人物がスッキリ分かるような気がするんだけど。

“青写真”なしの新国家の話も興味深いよ。薩長という明治維新勢力は、革命政権についてなんのプランも持っていなかったという。

全く文化の質のちがう日本が、にわかに欧米と出くわして、それから侵されることなく、それらとおなじ骨格と筋肉体系をもった国をつくろうというのですから、これは、青写真があるほうがおかしいのです。
と、筆者はそれは当たり前であると捉えているよ。それが証拠に、新国家ができて早々に、革命の英雄豪傑たちが地球のあちこちを見てまわって、どのように国をつくるべきかうろつきまわった訳だから。

そして、勝海舟坂本龍馬の登場。勝海舟坂本龍馬を“国民”第1号に育て上げたと。ここでいう“国民”とは、「だれもが平等であると思っているし、げんに法のもとで平等かつ等質である。さらには、どの国民も、自分と国家を同一視している」と定義しているよ。そう、封建制である限りは身分に縛られて自由ではない。藩という拘束から自由になった坂本龍馬はまさに“国民”たるべき人物に相応しかったのかもしれないね。そこに、勝海舟が目を付けたのだろうね。
で、国民になるとどうなるか。

封建身分制社会で“国民”あるいは“日本人”などというものは“火星人”というに近い抽象的存在でした。そのように、宙空にうかんだ大観念の一点に自分を置いたとき、地上の諸事情・諸情勢はかえってよく見えてくるものです。かつ、未来まで見えてきます。さらには、打つべき手までつぎつぎと発想できます。
と解説しているよ。分かりやすいよね。

最後に、大日本帝国憲法の話題。明治22年2月11日に大日本帝国憲法が発布された。明治維新から22年も掛かったということが、先にも話題にでたプランが無かったことに繋がるのかも。さて、その当時、日本はかなりのお祭り騒ぎだったとか。それに対し、ドイツの医師・ベルツは「滑稽なことには、誰も憲法の内容をご存じないのだ」と言ったとか。
筆者は、

先進国民が後進国に対してもつ悪意を感じさせます。
と言う。
で、このベルツの言葉、最近どこぞの国家の首相も同じような台詞を吐いていたよね。郵政民営化の4分社化について、
「それはそうかもしれないが、ほとんどの方はあのとき、4分社化知ってましたか、といわれて知ってる人はほとんどいない、というのが私の認識だ」
かの宰相は国民に悪意を持っているだろうか…。

と話題が逸れてしまったのだけど、本書はそういう意味で現代日本のルーツがよ〜く分かって、且つ現代の政治家の皆さんには“国民”の意味をもう一度問うてもらいたいという思いにさせられる一冊(二冊だけど)でした〜。

「明治」という国家〈上〉 (NHKブックス)
「明治」という国家〈上〉 (NHKブックス)司馬 遼太郎

日本放送出版協会 1994-01
売り上げランキング : 49584

おすすめ平均 star
star目から鱗。混迷の時代にあって羅針盤となる名著。
star明治維新の隠れた偉人たち
star学生時代に読みたかった!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
「明治」という国家〈下〉 (NHKブックス)
「明治」という国家〈下〉 (NHKブックス)司馬 遼太郎

日本放送出版協会 1994-01
売り上げランキング : 84977

おすすめ平均 star
star明治維新の隠れた偉人たち
star素晴らしい
star稀代の名著だと思います。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

応援クリックはこちら→にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ