解剖男

『解剖男』を読んだよ。熱い語り口が魅力?

動物の遺体を観察することで、動物の進化の過程を科学的に解明しようとする「遺体科学」を提唱する筆者。さらに遺体を文化としても扱おうという。そして、現場主義、現物主義を貫く姿勢。なかなかユニークな人物のような。

実際の解剖を始める前に、まずは遺体の運命について語る。例えば、渋谷の忠犬「ハチ公」。剥製は国立科学博物館に保存されているとか。そして、解剖の記録が在り、そこからハチ公の死因を分析する。フィラリアなのか、それとも焼き鳥の串なのか…。
その他に、キリンの「タカオ」、ライオンとヒョウの合いの子レオポンの「チェリー」など。当時の日本人の動物観をこれらの遺体が物語る。
そして、もっと地味なコウモリやネズミの遺体。どの遺体も科学や生物学や解剖学の、まったく新しい真実をつかみ出して生きているという。

解剖に取り掛かる。硬い遺体と称して、「骨」の話から。ここでは、系統と適応という考え方を学ぶよ。
キリンがシカやウシの仲間に近いとは系統の話。これは今ではDNAが正確に語ってくれる。ところが、

適応、すなわちライフスタイルに合わせた動物の形を調べようとすれば、骨こそがずば抜けて第一に重要な情報源になるだろう。<中略>今後生物学が遺伝子の内実をいくら解消したとしても、でき上がった形の機能を知ろうとする好奇心に対して、遺伝子の研究が応えてくれることはけっしてない。
と云う。骨は普段は寡黙だが、人間の好奇心に対しては素直に語ってくれるのかもしれないね。

具体的な骨の代表として頭骨に関する考察。どんな頭骨とは何かという結論はすごく単純なこと。それはモノを食べることと脳を守ることが基本設計であると。確かに、そう言われてみれば、もうホントにそうとしか言えないよね。

骨の話ももう少し。シカの足の骨。骨だけを取り出してよ〜く観察してみると、シカは指先だけで立っている。そして、人間でいう踵はすでに地面からは離れて高い位置にある。これはビックリ。そういう構造になっていたんだ〜。これは早く走るための適応なんだよね。

もうひとつ。軟らかい遺体は内臓。代表的な事例はウシの反芻胃。完全に草を食べるためにデザインされたもの。筆者は、反芻獣を「究極の草食獣」と表現するよ。

現代社会は遺体に無関心であると筆者。これを見直すために「遺体科学」と提唱するという。どうして現代人は遺体に無関心になったのだろう。養老先生の『死の壁』にそのヒントがあったような気がするなぁ〜。

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