ウォールデン 森の生活/ヘンリー・D. ソロー

ウォールデン 森の生活』を読んだよ。単なるアウトドアライフではなく。

かれこれ2年以上も前にKindle本として購入していた本書。上下巻で600頁を超える大書でもあるので、読み始めるのに二の足を踏んでいたけど、いよいよ読み始める。読書の秋だし。
タイトル的には当然にして、森でのアウトドアライフをどう楽しむかといったものを想像していたんだけど、そうはならず。自然観察は当然として、そこから地学や生物学の新たな知見を発見したり、政治、社会、経済といったソローの思いを書き留めた文章となっているよ。たった2年間であったけれども、いろいろな思いが沸き起こり、彼なりの哲学論も展開していく。

では、そのソローの哲学的見解を幾つかご紹介。まずは、やってみよう精神。

生きるとは、私だけの実験です。たしかにほかの誰もが生きてはいますが、それを参考にすることができない、私だけの実験です。
さらには、
私が森で暮らしてみようと心に決めたのは、人の生活を作るもとの事実と真正面から向き合いたいと心から望んだからでした。生きるのに大切な事実だけに目を向け、死ぬ時に、じつは本当には生きてはいなかったと知ることのないように、生活が私にもたらすものからしっかり学び取りたかったのです。
と科学的なものの見方をしながらも、思いっきり哲学的であったり。

もう一つ、

経験を通じて巧みに 摑み取った固有の考え、言葉、行為こそが尊いのです。私は、芯のない 漆喰の壁に釘を打ち込むような、愚かなやっつけ仕事はしたくありません。そんなことでは、社会はわずかな衝撃にも耐え切れず、崩壊します。
とモノゴトの本質を見抜くことの重要さを説いたり。

最後に。各章の最後に書かれている解説のようなものが秀逸。全般的に難しい文書が多い本書だけれども、この解説で全体が分かる。例えば、

ソローも森の家に住んで、以前のソローとはまるで変わったはず、と推測します。その大きな変化を書いたのが本書です。
とか。あぁ、極論すれば、それぞれの解説を読んでしまえば、本書の全貌が一気に分かってしまうとも言えるかな。

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「名探偵」に名前はいらない/関川夏央

「名探偵」に名前はいらない (講談社文庫)』を読んだよ。名探偵なのにデブ?

関川夏央の書き物は小説なのかエッセイなのか、微妙な感じのものが多いような気がするんだけど、本書は冒頭からはっきり小説だと分かるもの。そして、探偵が主人公なのは分かっていたけど、いきなりハードボイルド風。関川夏央の印象だと、どちらかと言うとコロンボとか金田一耕助をイメージしていたんだけど、そうではなく。あっ、中途半端にハードボイルド風かも。

その探偵さんが扱う事件が4件。ハードボイルドだから、酒、女、暴力という三点セットは一応揃っているんだけど、やっぱり主役がそれっぽくない。なんせ、

「ええ探偵です。おまけに運の悪いことに名探偵です」
と言ったりするわけだから。ハードボイルド風の名探偵が「名探偵」を主張するわけがなく、それを自ら口にするということは、ギャグなのか自虐的なのか…。

さらに筆者の趣味が出ているセリフをこの名探偵が吐く。

おれは予算の引締めにも興味があったが、鉄道の旅にも興味があった。空気に浮くものよりも、地面を這うものの方が信頼に足ると考える連中が世界にはかなり生残っており、おれもそのなかのひとりだ。旅とは、眼の高さにある風景を眺めながら水平に移動するものである、と信じながら三十五年を過ごすと、小学校で習った歯ブラシのつかい方とおなじく、たやすくはかえにくい。
そう、テツなのだ。趣味的には筆者の分身か?と思えなくもない。そっか、ハードボイルドは筆者の願望だったのかも。それでも、自身を鑑みて、自分が探偵になった姿を想像してみたのかもしれないな。

さらに、自分的に共感したセリフも。

スペインが満員の後楽園球場ならば、ポルトガルは、たとえば秋も深まった川崎球場だ。ロッテと南海がただ日程を消化するためにだけ戦っている場所だ。そしてリスボンはその外野席だ。疲れた恋人たちがわずかの距離をおいてすわるベンチだ。
いや、これが分かるのは同年代。そして、プロ野球ニュースを見ていたクチかもしれないわ。あぁ、自分もハードボイルド風名探偵に憧れるオヤジの仲間かもしれないなぁ~。

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放送禁止歌/森達也

放送禁止歌 (知恵の森文庫)』を読んだよ。皆が思考を放棄。

森達也のドキュメンタリーは面白い。普段に耳にしている言葉をあまり理解していなかったりすることがよくあるけれども、今回のテーマの「放送禁止歌」もその一つかもしれない。そもそも、「放送禁止歌」って何なんだろう。誰がどういう基準・根拠で決めたんだろう…と考えるとわけわからん。
筆者も同様な疑問を感じたのだろうけど、それをドキュメンタリー番組にするという危険?な企画を起し、各方面と折衝していく中で、「放送禁止歌」とは何かに迫っていく。最終的にはその番組は放送されることになるんだけど。

前半は「放送禁止歌」になった楽曲やその歌手を追っていく。どうして、「放送禁止歌」になってしまったのか、本人はどう思っていたのか。そのうちの一人がなぎら健壱。『悲惨な戦い』という楽曲が放送禁止歌に指定されたことについてのインタビューでは、

「…結局、言葉に罪はないんだよね。使う人の意識の問題なんですよ。」
という。そう、そんなに問題になるような歌詞ではないんだけど…。想像力の問題というか、けしからんと言う人は逆に想像しすぎなんじゃないかと…。

そして、この「放送禁止歌」の根源は何か?その答えは本書に譲るとして、その背景は自分自身にあることを主張する筆者。

「自覚性を持つこと。主語を自分にすること」
 文字にするとたったこれだけの作業だ。しかしこの作業が、メディアに、そして日本人全般に、そして実は誰よりも僕自身に、今、大きく欠落していることは間違いない。
という。無自覚という病。それは救われない。自分で考える事の放棄だよね。「放送禁止歌」というテーマがそこに行き着くとは…。いや、これはすべての人間の活動に通じることだよね。自覚しなくてはいけないな…。

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生きるための図書館/竹内悊

生きるための図書館: 一人ひとりのために (岩波新書)』を読んだよ。図書館界の重鎮らしい。

図書館関係の本を少しずつだけと読み続けているけど、「生きるための」っていうちょっと重そうな形容詞がつく本書。新刊だったから、それほど深く考えずに読み始めたけど、そもそもの図書館の有り様を幾つかの事例を中心にまとめているよ。

前半は戦後直後からの図書館の有り様を考えて、実践していった図書館関係者の話。主に、子供の読書環境についての活動。それは戦前の教育からの脱却でもあり、一人ひとりが生きていくために知識を取得し、考えていくための読書を目指す。題名の「生きるための」とは、そういうこと。そして、副題の「一人ひとりのために」にも繋がっていく話。

そして、後半は図書館とは何かという根本的な問いに。自分のような生半可な知識ではダメだったことを知ることになるんだけど。

例えば、図書館が教育に資するということをどう捉えるか。

その「教育」の中で、「教」とは集団教育のイメージが強いのですが、図書館は一人ひとりへの支援が仕事ですから、「育」を担当するといえます。この二つを総合して「教育」が成り立つのです。
と。そう、ここでも、「一人ひとり」というキーワードが出てくるんだよね。

最後は司書という役割について。

そこで本と新しい媒体の組み合わせと、誰もがそれを自由に使える条件が必要です。それには、それぞれの組み合わせを援助する「本と人をつなぐ人」とその考え方とが大事になります。
ということ。それがまさに司書という仕事。図書館が無料貸本屋ではあり得ない意義がそこにはあるんだよね。
図書館には頑張ってほしいなぁ~。

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リーダーシップ入門/金井壽宏

リーダーシップ入門 (日経文庫)』を読んだよ。エクササイズが必要。

前回の同様に夏休みの宿題の中で参考文献として紹介されていたものが本書。新書版だけど、それなりの内容で分かりやすいとのこと。そして、前回の組織開発の続きという位置づけ。その組織開発のうちのソフト的な側面が人の問題。その中でもリーダーシップって、職位の問題にも絡んできて、重要なキーワードになるのだと思う。

まずは、先入観の解消から。リーダーシップというと偉人?という連想になるけどれも、そうではなく、誰でもがリーダーシップを経験することができるし、発揮することもできるということ。

ポイントは、偉人も生まれつきそうだったのでなく、いろいろ経験を経て、スケールの大きなリーダーシップを取るようになったという側面にある。
ということ。だから、偉人のリーダーシップを学ぶのも大切だけど、そこから持論をもって他者に展開していくことも大切ってこと。そんなコンセプトの本だから、随所にエクササイズを展開し、鑑賞するように本書を読まないようにと何度も主張する。通読したとしても、あとから必ずエクササイズをやってみるように…とも。

この説明が前半でかなり長く続き、その後で実践家の事例紹介。松下電器松下幸之助とかクロネコヤマト小倉昌男とか。それに続き、研究者による分析を紹介しているよ。どの実践家も研究者もリーダーシップは基本的には2つの軸で整理しているということが基本線になっているよ。そして、その2軸とはP(パフォーマンス)とM(メンテナンス)。この二次元で4象限を作って整理してみるとスッキリ分かるということになる。PとMの内容は書き出すとキリがないので書かないけど、大事なのはリーダーシップにはフォロワーが大切だということ。誰でもリーダーシップを発揮できるとは、フォロワーの力もあるからね。

最後に、筆者の主張。持論を持て、そしてそれを語れ…と。リーダーシップには様々な原則があり、その中でもいくらか矛盾があるものもあり、それを解決するのが持論ということ。そして、それを語ることで自分の落とし込んでいくエクササイズとする。いや、リーダーシップは奥が深いわ。

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入門 組織開発/中村和彦

入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる (光文社新書)』を読んだよ。やっぱりY理論。

夏休みの宿題をやる中で、参考文献として紹介されていた本書。新書だけど、内容も質もよいということだったので、手にとってみる。もちろん、テーマにも興味があったわけで、組織というものを、ハード的にもソフト的にも考えてみたかったから。

そして、本書に書かれていることは、ハードとソフトの両面だけれども、やっぱり重要なのはソフト。組織開発といっても、組織の構造とかについては、ほとんど言及していないということもあるから。いや、ハードといえば、組織構造の他に制度などもハードと言える。それでも、やっぱりソフトが重要。特に、人と人、人と組織、組織と組織の関係をどう築いていくかが基本的なテーマになるような。筆者は、

前述したように、組織開発で変革する対象は、プロセスという人間的側面(ソフトの側面)であるとしていました。そういう意味では「ヒューマンプロセスへの働きかけ」が最も組織開発らしく、組織開発の歴史もそこから始まっています。
と言っているよ。ここでは、ヒューマンもプロセスも重要な概念なんだよね。さらに、
組織開発での究極的な問いは、「あなたはどのような職場や組織をつくりたいのか?」、さらに絞り込むと、「あなたはどのような関係性が育まれている職場や組織をつくりたいか?」ということだと私は考えています。
とも。組織という箱は柔軟性に欠けるわけで、それをヒューマンプロセスというソフトで対応していくんだよね。

もう一つの注目点。それは、ポジティブな面に着目するAIという組織開発アプローチのこと。問題点を課題として解決することは重要だけど、悪い方に目を向けてばかりだと、ストレスフルに陥る。だから、

組織の健全性が高まるには、できていないこと(問題やネガティブな側面)に目を向けるだけではなく、できていること(ポジティブな側面)にも目を向けることの重要性をAIは教えてくれます。
と筆者。副題の「活き活きと働ける職場をつくる」って、まさにこういうことを言っているんだろうね。あっ、これがY理論か。

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小説 天気の子/新海誠

小説 天気の子 (角川文庫)』を読んだよ。天気ってなんだろう。

話題の映画「天気の子」のノベライズ版。映画の公開と同時に本書も発売で、この人気ではすぐに読むことはないだろうな…と思っていたら、意外に早く図書館からゲット。本屋でもビニールに包まれている文庫は珍しい。300頁もの小説を立ち読みで済ませる人は少ないだろうけど、それだけ人気ということなんだろうね。

新海誠の作品は映像作品が原作で、同時にノベライズする形がほとんど。映像と小説の違いについては、あとがきで筆者が書いているけれども、小説はディテールを言葉で表現しているけど、映像は絵とか音楽でそれを補完しているということ。だから、映像は人の感性に依存する部分が大きいってことだよね。となると、自分的には小説派かな…。

さて、本書。基本的には、少年と少女の恋愛物語。でも、キーワードが天気。天気というか、気候と言ったほうがいいかもしれない。そして、その気候は人間に対してどうインパクトを与えるのか。特に精神的な側面で。気候を人間が制御するなんておこがましい。だから、

「そもそも天気とは天の気分」と、ようやく咳がおさまった神主が語り出す。
というシーンが出て来るよ。

さらに、気候の影響が社会までも変えていく。ラスト近くの社会の変化は「そうきたか。」という感じ。だから、

「世界なんてさ――どうせもともと狂ってんだから」
という須賀さんの言葉は、ある意味真実を言い当てていると思うよ。天気って地球そのものなんだよね。

おっと、物語の話から外れてしまったかも。もちろん、小説としての面白さも十分に楽しめる一冊でした~。

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